継承か消滅か ―輝夜―

継承か、消滅か。
審神者は、その意思により本丸の最期を決めることができる。それが彼女もしくは彼らのけじめであり、責任だ。
人と関わり、人を知り、人に触れ、人として生き、人の心を持った刀が、主なき本丸に留まることなんてできない。それはそうだ。それこそ、人の心による執着が、モノに芽生えてしまったら、歪んでしまうに決まっているのだから。


『ねえ、清光』
「うん?」


薬と白湯をいつものように持って行けば、主は布団から出て、縁側で月を見ていた。
冷えるよ、と語気を強めても、怒られた、と笑うばかりで、そこから動くつもりはないらしい。
とことん主に甘い俺は、彼女の隣に腰を下ろした。


「で?どうしたの」
『月が綺麗だよって言おうと思って』
「……そうね」


今夜の月はでっぷりと太りあがって、まるまるとしている。
その明りに照らされた主の顔はたいそう青白く、その生気ごと月に食らわれているようだった。
自分の襟巻を主に巻き付けようかと思ったが、辞めた。月に帰られたら困る。


『清光、今までありがとうね』
「俺そんなこと聞きたくないからね」
『最近あなたと出会った時のことをよく思い出すんだ』
「ねえ、ちょっと、俺の話聞いてる?」
『審神者になりたてで、何もわからなかったし、お互いわからないまま突っ走って、ここまできたけど、清光が隣に在ったこと、ずっと支えてきてくれたこと、本当に感謝してる』
「……」
『ねえ、清光』
「……なに」
『だからさ、最後まで私を支えてくれる?』
「……何言ってんの。そんなの当たり前じゃん」


俺は初期刀だから。そのための初期刀だから。
彼女の力によって鍛刀された刀は、審神者の力が弱くなっていくにつれ消えていった。
ひとつ、またひとつと消えていく度に、自分に課された役目が浮き彫りになっていく。
目を逸らしたかったのに、彼女が初めて鍛刀した、厚藤四郎がそれを許さなかった。
大将が選んだのはお前だ。
そう、主の最期を見届けるのは俺の役目だ。


『清光を選んでよかった』


こんなに、こんなに嬉しい言葉が、こんなにこんなに悲しい言葉だなんて。
ぼろぼろと涙が止まらない俺の横で、主はとびっきりの笑顔で月を見上げていた。


top





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -