継承か消滅か ―雲隠―

継承か、消滅か。
本丸の最期は、その本丸の主である審神者の意思により決まる。
継承ならば、現本丸のまま新しい審神者に引き継がれ続いていくが、消滅ならば、その審神者の死、もしくは任を辞すると共に、本丸も、刀剣男士も消える。


『私は消滅を選ぼうと思うんだ』


お腹の痛みなど、とうの昔になくなったはずなのに、じわじわと広がり始めるそれに、眉を顰める。
横たわったその体のどこに、そんな力があるのだろう。
主の声は、はっきりと鼓膜を震わせた。


「どうして?」


やっと絞り出せた言葉は、かすれて聞き取りづらいだろうに、主は掬ってくれて、その口元に柔らかい笑みを浮かべた。


『だって、嫉妬しちゃうじゃない?』


なんでこんな時にまで、笑わせようとしてくるんだろう。
全然笑えない。笑えるわけない。
目からはつぎつぎと涙があふれて、止まらない。
涙でぼんやりとしてしまう主の姿にぞっとする。


「いやだ」
『村雲江?』
「いやだ、いやだよ」
『……』
「消えるなんて簡単に言わないでよ」
『村雲江……』
「君なら、ずっとそばにいさせてくれると思ったのに」


わかっちゃいる。
審神者は人間だ。俺たちとは違う。モノじゃない。分かっている。
寿命なんだ。人間なんてずっと見てきた。分かっている。
それでも、ずっとずっと、一緒に過ごせると、今世の主なら、きっと、一緒にいられると、願わずにはいられなかったし、そのつもりだった。
だから、目を逸らしてきたのに。
こんな話なんかこれっぽっちもしたくない。
つらいだろうに、ゆっくりと体を起こした主は、俺をそっと引き寄せて、背中をさすった。
人の手のひらって、どうしてこんなにあたたかいんだろう。
そこに君がいるって感じられてとても安心するのに、だからこそ、それを失うのがよりいっそう怖くなる。
いっそこのまま熔け合って、ひとつになってしまえば、ずっとずっと一緒なのに。
静かな夜の空には、星は見えない。


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