シンデレラの魔法は解けない

「イルミネーション、見に行きませんか」


そう誘われたのは一週間前。
アルバイトの帰り道、夜も遅いから、と言って、あがりが一緒になる日は駅まで送ってくれる木手くんが、クリスマス一色の街を見て、私にそう声かけた。
彼の言葉に、一つ白い息を吐いたのち、もちろん、と答えて、その日は別れた。
そして、今日、ついにその日だ。
これって所謂デートというやつなのでは!?
なんてたって今日はクリスマス。
期待しない方がおかしい、よね?
数時間あれじゃないこれじゃないと鏡の前で格闘して、ようやく決まったのは、買ったはいいけど勇気がでなくてなかなか着れなかったすみれ色のワンピース。
髪型も動画を見ながら整えて、アクセサリーなんかもつけてみたりして、ビューラーで瞼を挟みながらめいっぱいおめかしをして、少しずつ自分が変わっていくことがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
シンデレラってこういう気持ちだったのかな、なんて思いながら、ちょっと背伸びをして、黒のハイヒールに足を通して、待ち合わせ場所に向かえば、木手くんはすでに待っていた。


「みょうじさん、」
『木手くん、お待たせしてごめん、寒かったよね?』
「……」
『えっと、木手くん?』
「ああ、いえ、」


ぐっと何か言葉を飲み込んで、ふと目を逸らす。
あれ、もしかして変だったかな、と焦っていると、木手くんは、再びゆっくりと私を捉えて、いきましょうか、と手を差し出す。
いつもすぐそばにあって、でも届かなかったその手に、触れてもいいのだろうか。
ためらう私の手を、木手くんはやさしく包んでくれて、冷たくなってしまいましたね、なんて言いながら小さく笑う。
街を彩るイルミネーションはキラキラと、いつもより輝いて見えて、すべてがまぶしい。
こんなに綺麗だったんだっけ。
彼の隣を歩くたびに、幸せな気持ちがどんどん心を満たしていく。
時折、彼と視線がぶつかる度に鼓動が早くなって、この手を離したくないな、と思えば思うほど、メインの大きなツリーに近づいていく。
二人並んで見上げたツリーはとても綺麗で、まぶしくて、でもちょっぴりさみしくて、恋しくて。


『綺麗ですね』
「そうですね」
『もうすぐ、日付が変わっちゃいますね』
「……そうですね」
『……そろそろ、帰りましょうか』


離しがたいと言いたげに指先で彼の温度をゆっくりと感じながら、手を離そうとしたが、それはかなわず、彼の手に巻き戻される。
さっきよりも強く繋がれた手が、燃えるように熱い。


「帰したくない」


あなたのことが好きだから。
みょうじさんと一緒にいたい。
時計の針が12時を指して、紡がれた一つ一つの言葉が私を包んでいく。
この魔法はきっと解けたりなんかしない。
離れないように、彼の手を握り返して、永遠の言葉を宿すこの木の下で、ただただ二人見つめあっていた。



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