裕次郎と十一番目のこと


ふう、と、手に持っているココアを冷ますため、息を吐きだすそのくちびるに思わずくぎ付けになった。
ちゅうの味は黒糖味。
なんて、昔言った言葉が思わず口から出そうになって、急いでひっこめる。
あちっと唸ったわんを、不思議そうに見上げるみょうじのくちびるはつやつやと潤っていた。


『何してんの裕次郎』
「うう……舌火傷したやし……」
『ばかじゃん、ぼうっとしてるからでしょ』
「しょうがねーらん!だって、」
『だって、何』


ずずいっと身を乗り出してくるみょうじに、まさかやーのくちびる見てたから、なんて言い訳もできず、なんでもない、とそっぽを向いた。
変なの、と言ったきり追及してこないみょうじにほっとしつつ、未だ熱そうに湯気を上らせるカップを見つめる。ココアの甘い香りを吸い込むと、体中が甘くしびれてきて、なんだかくらくらしてくる。
だからこれは決して、自分の意志でやったことではなくて、完全に無意識で、いつの間にか、みょうじの頬に口付けていたのはわんのせいだけどわんのせいじゃなくて。
目をまるまるとさせたみょうじはわんのこの行動に驚きを隠せないようで、動揺したのか、わんと同じように舌を火傷してしまったようだった。
ええい、ままよ、そのまま何度も頬に啄むように口付けて、みょうじの様子を伺っていると、顔を真っ赤にした後、ぎゅっと眉を寄せて、わんの顔を押しのけた。


『ちょっと、急に何してんの裕次郎』
「なあ、みょうじ」
『な、なに』
「ちゅうしたくない?」


きっと茹でたタコはこんななんだろうな、なーんて思いつつ。
したくない!と言い張るみょうじの説得力のなさたるや。
笑っていると、何笑ってるのと怒るみょうじのくちびるに、ついに、ちゅうしてやった。


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