神尾くんと十一番目のこと

階段につながる廊下の曲がり角。
昼休みに入り、一人遅れて購買へと階下に向かおうとする私と、教室を一番最初に出て昼ご飯を買い終えて教室へと向かっていただろう神尾くんは、出会い頭に思いっきりぶつかってしまった。

のだと思う。

思う、と曖昧なことを言ったのは、ぶつかった瞬間、私の唇に触れた自分のものではない感触のせいで、それどころじゃなかったからだ。
いやでも本当にほんの一瞬だったし、気のせいだったかもしれないし。頭でも打っちゃって夢でも見てたのかもしれないし。
なんて心を落ち着かせようとしても、唇が意外と柔らかかったとか、でもやっぱりちょっとかさついていたとか、頭を駆け巡るのはそんなよくわからない分析ばかりで、ようやくはっと我にかえった私の眼前には、覆い被さった体制のまま口を閉ざしたままの神尾くんがいた。
夢じゃなかったんだ。
そう思いながら唇を指でなぞると、神尾くんは顔を真っ赤にして、より現実味が増してしまった。
逃げねば。
とにかくこの場は逃げなければ。逃げて、なかったことにしよう。
私は神尾くんの下から這い出ると、呼びかける声もそのまま、廊下を走りだした。
生徒たちの間をくぐりぬけて、階段を上り、下り、また廊下を一直線。それを繰り返すこと数回。
けれど、足の速い神尾くんに勝てるはずもなく、じりじりと差を縮められ、もう逃げ場がない、と思った時、ちょっとした段差に気づかず、足を踏み外した私は、そのまま固い廊下にダイブして、来る衝撃に目をつむる。だが、幾度待てどもその衝撃は来ず、いつの間にかお腹に回されていた腕から視線をたどれば、すぐそこに息を大きく吐く神尾くんがいた。


「やっと、捕まえた」


みょうじって意外と足速いんだな。
そう言いながら、倒れかけたままの姿勢の私を支えてくれて、私はどうにか普通に立つことができた。


『やっぱり逃げられなかったかあ』
「当たり前だろ、俺を誰だと思ってるんだよ」


それよりさっきの、と神尾くんが恥ずかし気に言い始めて、途端先ほどの感触が思い出されて、ドキリとする。
すべて言い切る前に、事故だから、ノーカン、なかったことにしよ。ごめんね、じゃあ。と早口で捲し立てて、また逃げの姿勢に戻るが、どうやら神尾くんはもう許してくれないらしい。
私の腕を引き寄せて、するり、上った大きくて固い指が、私の指を絡めて、神尾くんの唇に触れさせると、熱い吐息が伝う。
カウントしてくれたっていいだろ、と、恨めし気に覗くその目から、ついに逃げ出せなくなってしまった。


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