チェリーリング


今日は久しぶりの非番。
自分の部屋でのんびり、とも思ったが、生憎、真選組とよく縁がある万事屋の銀さんに呼び出されていた。
どうやら、おいしい甘味処を紹介してくれるらしい。
何となくめかしこんで、門を出ようとすると、任務帰りの土方さんに会った。タバコをくわえ、相変わらず瞳孔が開いていたが、その目はいつもより少し見開いていた。
お前どこ行くんだ、と聞かれたので、銀さんと甘味処に行くんです、と答えると、急に不機嫌モードになって私の額を思いっきり弾いてきた。
じんじん、と疼く。
何なんだ、まったく。
沖田隊長に副長の座奪われればいいのに。
土方さんは、まだ何か言いたそうにしていたが、舌打ちすると、屯所の中に入っていった。
首をかしげつつ、時計を見ると、待ち合わせ場所に間に合うかどうかわからない時間。私は、いつものスニーカーでなく、下駄をはいてきてしまったことに激しく後悔しながら、道を急いだ。


* * *


『銀さんっ、!』


そう呼ぶと、よぉ、と言いながら銀さんはひらっと手を振った。


『すみません、遅くなっちゃって』
「いやいや、別にかまいやしねーよ。……行くか」
『あ、はい』


スタスタと歩きだした銀さんの後ろを追いかける。
いつもはゆっくり歩幅を合わせてくれる銀さんだったが、今日は、何故か速い。それでも時々、ちゃんとついてきているのか心配なのか、ちらちらと振り返ってくれる。
そんなに心配されるほど方向音痴ではないんですが……。
暫くすると、前を歩く銀さんの足がぴたりと止まった。


「ここ」


急にとまったので、もう少しでぶつかるところだった私は、一人であわあわしていると、銀さんは、軽くそう言うと、店内に入っていった。
本当においしいんだろうか……。
予想に反して、店内は過疎化していた。
銀さんは、窓側の席を手早く陣取り、手まねきをしている。急いで座ると、窓から花いっぱいの庭らしきものが見えた。
銀さんはそれを知っていたのだろうか。
でも、本当に、綺麗だった。
そんな風に庭を見ていると、銀さんがウェイターに何やら話をしたかと思うと、暫くの後、おまたせしました、と言って、再びそのウェイターがやって来た。
いよいよパフェの登場か、何て思っていたけれど、おかれたのはたった1つのパフェ。
疑問顔で銀さんを見るが、それを無視してパフェを食べ始めてしまった。


『ねぇ…銀さん?』
「んー?」
『あのさ、奢ってくれるんじゃなかったんですか?』
「そんなこと一言も言ってねえよ」
『はいっ!?』
「パフェ食って、話をしよう、とは言ったけど、奢るとは言ってない」
「えええええ!?何ですかそれ!?」
「まぁ、黙って待っとけって」
『え、何ですか、その拷問』
「拷問?んなワケねぇだろ。俺は真剣な話をしに来たんだ」
『じゃぁ、早く話して下さいよ!』
「食べ終わってからな」
『何でですか!……あーもう、私も何か食べる!』
「ダメ」
『ええええ!?何でダメなの!!』
「……」


銀さんはおいしそうに食べているっていうのに。
ただ見てるだけなんて、なんという地獄……!
そうこうしているうちに、コーンフレークもなくなり、何故か最後まで残していたさくらんぼを、ヘタごと口に放り込んだ。
はぁ……結局私、何も食べてないじゃないか。
はぁ、と再び溜息をつこうとしたが、また銀さんに遮られた。


「なぁ、渉亜、手出して」
『……何でですか』
「いーからいーから」
『はぁ……?』


不機嫌モードの私に対し、何故か晴れやかな笑顔で言う銀さんに、渋々ながら手を差し出すと、銀さんはすかさず薬指に何かをはめこんだ。そして、更に、にっこりと笑った。


「予約!」
『よ……やく?』
「そう、予約」
『これ……さくらんぼのヘタ……』


薬指には、不格好な緑色の輪っか。
しかも、薬指に丁度いい大きさ。


「結構練習したんだぜ?なかなか舌で結べなくてよォ」
『……わざわざ練習したんですか?』
「ああ」
『これだけのために?』
「そーだよ」
『っぷ、』
「あ、こら、渉亜、笑うんじゃありません!」
『いや、だって、これだけの為に悪戦苦闘する銀さんを思い浮かべると、ホント・・・…くっ、』
「あーもう!ちゃんとしたヤツ買ってやっから、それまで待ってろよ!!」




チェリーリング




「……土方の先を越せてよかったぜ。アイツなんかに取られちゃたまんねーからな」
『土方さん?何で土方さんが出てくるんですか?』
「お前……まさか気づいてないの?」
『何が?』
「……まぁ、いいや」




(報われた恋、報われない愛)


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