勘違いはっぴーばーすでぃ!


珍しく早くに目がさめた。
テレビをなんとなくつけてみたが、たいしておもしろい番組なんてなかった。
そういや、最近学校行ってなかったな、なんてふと思って、気分転換にでも久しぶりに行ってみようか、なんて思った。


「ああ、そうだ、高杉。知ってやしたかィ?」


そんな日の朝。
教室に入った途端、目の前には沖田総悟がいて、そう言った。


「あぁ?何がだよ」


唐突の言葉に眉を顰めてそう言うと、沖田はにやり、と笑った気がした。


「今日って、渉亜の誕生日なんですぜィ」
「……」
「ありゃ?知らなかったんですかィ?」


沖田はわざとおどけたように、にやにやと気持ち悪い笑みを浮かべた。
渉亜はまだ来ていないみたいだ。


「……笑ってんじゃねぇよ」
「いや……だって、恋人ともあろうものが知らねぇなんておもしろくありやせん?」
「うっせ」


そう言うと、また一段と嬉しそうにSっぽい笑みを浮かべる。すっかり忘れていたが、こいつも銀時と同じドS気質だった。


「まぁ、いいや。ちゃんと祝ってやってくだせェ」


沖田はそれだけの為にわざわざ席を外してまで話にきていたようで、ひらひらと手を振りながら、自分の席へと戻っていった。


「……」


どうしようか。
今日は渉亜の誕生日だなんて初耳だ。
何か用意しているわけがない。
そもそも、渉亜の好みなんて全くと言ってわからない。


「そういや、渉亜が喜んでるところとか笑ってるところとか見たことねぇ……」


授業に出ろ、とか、さぼってんじゃねー、とか、渉亜と顔をあわせる度怒鳴られていた気がする。っていうか、怒っている記憶しかない。


「誕生日……ねぇ……」


そういや、何かが欲しい、と言っていたような……なんだっけか?


「あ……」


* * *


これから授業という時に、カバンをひっつかんで、学校を出たのはいいけれど、目の前にはまっピンクの可愛らしいお店。
正直ひいた。
来なければよかったと後悔した。
だが、もう既に遅かった。
なんと恐ろしいことに、店のドアは自動ドアだったのだ。


「くっ……入るしかあるめー」


開いていたドアから店内に入ると、やはり、かわいらしい雑貨がたくさん並んでいた。
カラフルかつ綺麗な店内に呆然と立ち尽くしていると、若い女性の店員と目が合った。ここには、俺とその店員以外に誰もいなかった。出かけるには早い時間帯で、更に学生は授業中だ。
なんだか気まずくなって、目の前の棚に真っ直ぐ歩み寄って、そこにあった小さなストラップを乱暴にとって、ずかずかとレジに進んだ。
無言で店員に差し出すと、少し目を丸くしたが、すぐに会計してくれた。
ポケットから小銭を出し、レシートも受け取らずに、またずかずかと大股で、店内を出た。


「……っ、はぁー……」


店からすぐ出たところで、息を大きく吐いた。
手のひらに小ぢんまりとしたパステルカラーの袋がのっている。


「……何やってんだか」


もう一度、袋を見、そして、それを握りしめたあと、一刻も早くその場から離れたくて、走った。走って、走って、走り続けていると、太陽はいつの間にか真上に来ていた。
ったく、この体の何処にこんなスタミナがあるんだか。
しばらくすると、銀魂高校の門が見えた。
門のカギはあいてあった。
不用心だな、とらしくないことを思いながら、靴箱に向かう。
チャイムが鳴る。
どうやら、4限目の授業が終了したようだ。
息は未だあがったままで、そのままの勢いで階段を駆けのぼった。
廊下を駆け抜け、教室のドアを思いっきり開けると、一気に全員の視線が集中した。


『高杉……』


肩で息をしていると、聞きなれた声が耳に入った。


「渉亜」
『……何?なんか用?』


急に声のトーンをかえた、渉亜は不愉快極まりない、といった顔で腕を組んだ。
ああ、もどかしい。


「……ちょっと来い」
『はぁ?』


さんにゃの腕を掴んで、教室を出た。
後ろから、冷やかしの声が聞こえた気もしたが、気にもしなかった。
ずかずかと、大股で歩くと、渉亜は小走りになる。
そのまま、階段をのぼって、ギシギシと煩い、立ち入り禁止という紙が張られたドアを、乱暴にあけると、夏の日差しと、その割には爽やかな風が屋上にふいていた。


『で、何なの?いきなり?』


また不機嫌な顔に戻る。
それを横目に、溜息をはいて、渉亜の腕から手を離した。


「別に」
『別にって、高杉……!私、これからお昼だったんだけど!!』
「知らねー」
『用がないのに呼ばないでよ!』
「うるせぇ」
『な、っ!』


手の中で袋がかさり、と微かに鳴る。
渡さなければならないのに。それでも手は動かない。


『高杉?』
「おい、渉亜」
『何?』
「……ほらよ」
『え?あ、わっ!!』


袋を投げると、渉亜は反射的にそれを受け取った。


『何、これ?』
「……今日、お前誕生日なんだろ?」
『へ……?』
「へ?ってお前……」
『私、誕生日明日だよ?』
「へー……って、はぁ?」


誕生日が明日?今日じゃなくって?何だそれ。


「……意味わかんねぇ」
『意味わかんないのはこっちもなんだけど』


渉亜は少し驚いたようにじっと、此方を見てきた。
気まずい。
目を逸らして、舌打ちをする。


「なんだ、今日、お前誕生日じゃねーのか」


内心がっかりしたが、当然口にも出さなければ、態度にも出さない。
だが、渉亜の視線が辛くて、逃れるように、後ろを向いた。


『ねぇ、高杉』
「あー?」
『これ、開けてもいい?』


思わず、振り向くと、笑っているような、泣いているようなそんな顔をしていた。


「勝手にしろよ」


そう言うと、渉亜はすぐにシールをそっとはいで、袋を開ける。
そのまま逆さにすると、中から、小さなストラップが出てきた。さっき適当に掴んで買ってきたもの。何処のものかよくわからない国旗のシンプルなストラップ。


『……』


なんて可愛げのないものを、と思った。
あんなにかわいいお店に行ったというのに、自分は、何故何処でも売ってそうなものを買ったのか。


「いらねぇなら、俺が貰う」
『へ?あ、いや、いる……うん、私が貰う』


そう言って、渉亜は自分の携帯にストラップをつけると、満足そうに笑った。


「何笑ってんだよ。気持ち悪い」
『な!気持ち悪いとはなんだ、気持ち悪いとは!』


未だにやにやと笑っている渉亜は、ゆっくりと隣に来ると、綺麗な空だね、とつぶやく。
確かに。屋上から見る空は、いつも特別だと思う。


『ねぇ……高杉』
「ん?」
『ありがとう……』
「ああ」




勘違いはっぴーばーすでぃ!




「何でィ。仲悪くさせるどころか、よけい仲良くなっちまった」


ドアに背もたれて一部始終を見ていた沖田はわざとらしく肩をすくめる。


「あーあ、つまんねーの!」


そう言って、気づかれないように、沖田は階段を下りて行った。
その時、沖田が嬉しそうに笑っていたというのは、誰もしるよしがない。



(確信犯は確かにいた)


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