「HAPPY BIRTHDAY」


『ねぇ、今日って何の日かわかる?』


いや、唐突に言った私も悪かったとは思うんですけど、彼、何と答えたと思います?


「は、知らねーよ、んなもん」


ですって。

朝、喉が渇いたので冷蔵庫開けようとしたら全力で怒られたし、今だってソファに寝転んでジャンプなんか読んでる。こっちを見さえもしない。
あまりにも冷たくはないか。


『うそつけ、知ってるくせに』
「何がだよ。朝から煩い」
『うるさいって何ー!!』
「それだよ」


ちょっとイラってくるのは何でかな。
ちょっとムカってくるの、これ気のせい?
俺はジャンプを読んでるんだ、と言って、また銀時はジャンプに目を戻す。
何だ。
貴様の恋人はこの少年週刊誌だとでもいうのか。
ちくしょう。
私もジャンプ好きだよ、このやろう。


『もーはぐらかさないでよー!知ってるんでしょー!!』


ジャンプに向かってチョップをかますと(ごめん、十護)、銀時は寝転んで、しかも顔の上に腕を突き上げて読んでいる状態だった為、直接顔面にあたってしまった。


「……ぶっ!渉亜!何してんだ、このやろう!思わずグラ子とキスしちまったじゃねぇかァァアアア!!」
『だから、何だァァアアア!だったら今日が何の日か当ててみろ、バカ銀時!』
「バカとは、何だ!バカとは!バカはヅラと坂本だけで十分ですー!」


確かにそうだな、と納得してしまった自分は、もう、終わればいい。
むくり、と起き上った銀時は不機嫌そうに頭をかいた。
死んだ魚のような目は、今日も健在だ。


「で、何?今日が何の日かだって?」
『うん』
「あーはいはい、あれね。7月9日、グレゴリオ暦で年始から190日目(閏年では191日目)にあたり、年末まであと175に『はいはいはいはい、ストーップ!何でそんな難しいこと知ってるの、そして何でさらっと言えるの。そして、根本的にそういうこと言ってるんじゃねぇぇえええ!』
「え、何、違った?」
『違……いや、あってるのかもしれないけど……って、何、そんな、お前知らなかったの、的な嘲笑浮かべてんの!?』
「えーっと、だったらアレだ。長篠の戦い」
『歴史がどうしたァァアアア!!』
「おま、渉亜、バカにすんじゃねぇよ。信長だぞ、信長!」
『今は信長どうだっていいよ!』
「慶喜の正室が亡くなった日」
『縁起でもないことを言うんじゃねぇええ!そして、歴史がどうしたァァアアア!』
「ジェットコースターの日」
『ちょ、だから、何だって言うんだ!!ジェットコースターの日だからといって遊園地連れてくわけでもないじゃない!』
「あっ…!」
『何?思い出した?』
「インデペンデンスディ!」
『どこのだよ!』
「アルゼンチン」
『…なんでそこでキメるの。え、もしかして、これが1番言いたかったの!?』
「当たり前じゃねぇか。インデペンデンスディ万歳!」
『ふざけるなァァアアア!』


息切れ、動悸、眩暈。
好きな人を目の前にしての恋の症状だわ、なんて言う奴がいたら今此処でぶん殴ってやりたい。此処に新八くんがいたら、ツッコミも、もう少し楽だったのだろうが、生憎今は2人っきり。
なんだか頭が痛くなってきた。


『はぁ……』


私は小さく溜息をついた。
此処まで来ると、本当に忘れてしまっているのかもしれない。
そう思うと、なんだか少し胸が苦しくなった。


『……忘れちゃったのかな』


銀時の方を見ると、眠たそうにしながら人差し指で頬をかいている。少しだけ目があったが、すぐにそらされてしまった。
そして、銀時は、大きな溜息を一つついて、ソファから立ち上がった。


「ったく、あーうるさいうるさい」
『?』
「少し落ち着け、渉亜」
『なっ……!』


そもそも銀時のせいじゃないか、と口を開いたが、額への攻撃によって阻止されてしまった。


『痛いよ、銀時!』
「うるせー、渉亜。そのコーフンは後にとっときやがれ」
『へっ?』


いきなり何を言い出すんだ、と思えば、銀時は朝、開けるな、と私に怒った冷蔵庫を自ら開けて、ガサゴソとし始めた。
いったい何が始まるんだ。


「お前よー、今日は何の日かって俺に聞いたけどよー、お前それ、愚問じゃねぇか」


銀時はそう言いながら、冷蔵庫をしめて立ち上がった。


「忘れた?ふざけんな」


銀時はゆっくりと此方を振り返った。


「忘れるわけねぇだろ。なぁ、渉亜?」
『……!!!!』


眠たそうな目を細めて、銀時は笑った。




「HAPPY BIRTHDAY」




(優しい微笑みと甘い甘いケーキに酔いしれた)


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