好音quintet

「と、言う訳で――――――――
第一回渉亜は果たして誰が一番好きなのか会議〜わーパチパチパチ」


いったいいきなり何なんでしょうか、この男は。
突然目を輝かせたと思ったら、(こんなところで煌めくのか)いつもの気だるい感じで先程のような事を言う。白夜叉と呼ばれ、恐れられているというのに、これでいいのか。本当に。
しかも、何で私絡み…!


「どうした、銀時。いきなりだな」


そう言って、桂、もといヅラは微かに眉を顰める。
彼は、狂乱の貴公子とも呼ばれる、攘夷志士だ。
だが、先程まで台所に立って、ご飯の準備をしていた、なんていうのを知っている人はほんの一握り。


「頭でも狂ったんじゃねえのか?」


高杉――晋助は、日頃使っている愛刀を丁寧に手入れをしている。
最近、連日で戦が起こったためだろう。彼もれっきとした攘夷志士なのだ。
晋助は、顔を上げるでもなく、笑いを含んだ口調でそう言った。


「いや、銀時の場合、元から髪はくるくるだ」
「そうだった」


晋助は納得したように頷くと、銀時は気にいらなかったらしい。むっとした表情を浮かべた。


「髪じゃねぇよ」
「確かに、金時の髪はくるくるじゃき!」


あっはっは、と高らかに笑う、辰馬は、銀時の髪を、その大きな手でぐしゃぐしゃ……というより、ぐいぐいと掻きまわす。辰馬の特徴でもある、もじゃもじゃヘアーは顕在だ。
銀時は、いかにも嫌そうに顔を顰めて、金時じゃねェ、といいながら、辰馬の手を払った。


「お前にだけは言われたくねーよ、馬鹿本」
「あっはっはっは、泣いていい?」
『……』


私は、はぁ、とわざとらしく溜息をついたのだが、皆の耳には聞こえていなかったようで、銀時が、話がそれちまったとか言って、本題に戻そうとしている。
寧ろ、話がそれてった方が嬉しいんだけどな!いや、切実に!


「なあ、もっちろん俺だよなぁー渉亜!」


にっこにこと普段では珍しい笑顔を向けられるが、そんなもん答えられるわけないじゃないか。


「その根拠は何処にあんだよ」


晋助が、興味なさそうに、銀時に問うと、待ってましたと言わんばかりに目がキラリと輝いた(なんでこんな時に輝くのさ)。


「だってさー俺、渉亜に超優しいし!俺の大事なジャンプ貸したりよー、」
『……私のお金だったよね』
「じゃ、じゃあ…そうそう!甘味処!!よく連れてってあげたじゃん!」
『遠い昔の思い出だね』
「ちょ、おま!!寺子屋ん時、勉強いろいろと教えてやったろ!」
『え……あれ全然意味わかんなかったんですけど』
「え!?でも、お前あん時、テストで100点とってただろ?」


そういえば……あれ、でも、銀時のはホントに理解できなかったはず。
確か、あの時は……


『ああー……それは、あのあとヅラに教えて貰ったんだよね』
「そういえばそうだったな。それと、渉亜。俺はヅラじゃない、桂だ」
「ちょ、おま!ヅラァ!何やっちゃってくれてんの!?ダメじゃん!俺と渉亜のラブラブゲージが下がったじゃねーか!」
「ラブラブ、ゲージ……、」
「こら!高杉!そこ笑わない!」


余程ツボに入ったのか、晋助はヅラの隣で腹を押さえて必死で笑いを堪えている。
確かに、今のは私でもひいたし、笑いたくもなった。それはこの場にいる銀時以外の誰しもそうだろうが、あまりにも真剣に言うので、笑えなかった。
いや、なんか、可哀想だな、と思って。


「じゃあ、ヅラの可能性は?」


晋助はようやく復活したのか、先程の名残の涙目で、言った。
それにしても、晋助の涙目……久しぶりに見たような気がする。確か、最後に観たのは、小指を箪笥の角にぶつけた時だったと思う。
あ……やばい。これは、言っちゃいけなかったんだ。


「俺か?ふむ……いや、例え渉亜が俺を好きだとしても、俺は人妻好きだからな」
「待てよヅラァ。俺ァ知ってんだぜェ?」


にやり、と笑った晋助は今まで手に持っていた刀を、そっと床に置いた。


「む?何がだ高杉」
「お前が昨日の夜、渉亜の部屋に忍び込んで、寝顔を見て微笑んでやがるのを」
『なっ……!』
「キモ!!」
『なななななにやってんのヅラァァアアア!!』
「いや、あ、あの時、渉亜が寝言で“小太郎”って言ってだな……、」
『え、嘘!?』
「んな訳あるかァァアアア!!桂、お前、今、すっげぇきょどってるから!バレバレだから!!」
「か、桂じゃない!ヅラだ!!間違った!桂だァア!!」
「……賑やかぜよ」
「バカなだけだろ」


正直信じられません。いや、まさか、ヅラが、ヅラが……ええええええー!?
いや、っていうか、辰馬と晋助、そこ言ってる場合じゃないから。私の貞操の危機だったんですけど。……いや、待てよ?何かがおかしくないか。


「あれ?ちょっと待てよ、高杉。お前なんでヅラのこと知ってんだ?」


何か、嫌な予感がした。
晋助がにやり、と笑った……ような気がした。気のせいだということにしておきたい。


「ああ、一発ヤろうと思ってなァ」
『ちょっと、待って。今、なんかとんでもない言葉が聞こえた気がしたんですけど』
「気のせいじゃねェ、大丈夫だ」
『全っ然、大丈夫じゃねェェェェエエエエエエ!!』
「高杉、てめ、何1人抜け駆けしようとしてんの!?ヤる時は銀さんにも言いなさい!」
『待たんか、コラ』
「何言ってるんだ、銀時。渉亜は嫁入り前の女子の身。傷つけるわけにはいかん」
『ヅ、ヅラぁ〜、』
「と、言う訳で、渉亜と結婚したら誘ってね!」
「どんだけ人妻好きなんだよ、てめェはァァアアア!!」


…すごく感動したというのに。感動して、涙が出そうになったというのに。
ヅラ、アンタはどうしてもそうなんだね。もう、何か、別の意味で涙出てくるよ。


『……ヅラ、これから私の半径1km未満に入ってこないでね』
「1km未満とは、よかったぜよ、あっはっはっは!」
「笑いごとじゃないぞ、坂本!あ、渉亜、坂本の後ろに隠れるんじゃない!」
『えー……だって。ヅラが早く私から離れてくれないんだもの。だから、私から離れてやったんじゃない。それに、辰馬の後ろなら、なんか安全だし』


そう言うと、大きな手がいきなりにゅ、っとのばされて、髪をくしゃくしゃと撫ぜられる。
温かいその手はいつもの安心できる手だ。


「おー。わしゃぁ、おまんらと違って渉亜に愛されとるぜよ!あっはっは!」


辰馬は嬉しそうに笑ってから、目を細めた。


「何かむかつくんですけど。」
「……バカ本のくせに生意気だな。」
「あっはっは!渉亜、どうだ。このままわしのモンになるかー?」
「むむむ、渉亜!坂本も例外じゃないんだぞ!男は皆オオカミだからな」
「ああ、そういやァ……、」


そう、思いだしたと言うように晋助は口を開いた。その口元には、また例の不敵な笑みを浮かべている。
デジャヴ……ああ、もう……ホントこの先を聞きたくない。


「坂本、お前、昨日、風呂覗いてたろ」
「!!」
「坂本……、貴様はそういう奴だったか……!」
「いや、あ、あれは、」
『なっ!?辰馬、アレ、ケチャップかなんかじゃなくて、もしかして鼻血だったの!?』
「いや、際どかったもんで、げぶふぁっ!」
「お、おおー……見事なアッパー……」
『って、アンタ、晋助!何でまた知ってんの!!』
「あ?俺もその場にいたからに決まってんじゃねーか」
『渉亜流スペシャルアッパー!!』
「おおっと、そう簡単にはさせねェぜ」


ちくしょう!これだから、この男は!軽々と受け止めやがって!!一発殴らせやがれ!!女なめんなァァアアア!!


『その手を放せ、バカ杉!一発殴らせろっ……って、わわ!?』


一気に視点が反転したと思ったら、天井と晋助の顔が見えた。
その状態のまま、不敵な笑みを未だ浮かべている晋助に腕を強く抑えられてしまった為、身動きがとれなくなってしまった。


『……何してんの、晋助』
「あ?バカかお前、此処までされて天然面するつもりかよ。押し倒してる、見れば解ることじゃねェか」
『解ってたまるかァァアアア!!』
「現実逃避も大概にしやがれ」


ばったばった、と、足をバタつかせると、それが、晋助の背中にあたったらしく、それが気に入らなかったのか、瞳孔が開いた眼で睨まれた。その上、低く、ぼそりと、犯すぞ、と言われた。すいませんっしたァァアアア!!


「おい、てめェ、高杉!いい加減渉亜の上からどけ!」
「なぁ……銀時、いいかな?もう、ずばっと斬っちゃっていいかなぁ?」
「あっはっは!わしもそろそろおんしを撃っちゃいそう!」


それぞれに木刀やら、真剣やら、拳銃やらなんやらを取り出して、引き攣った笑みを浮かべている。
正直言って怖い。もっといえば、この私の状況からして怖い。絶対、これ、私にも当たっちゃうよね!?ずばっていっちゃうよね!?これ!?
晋助は、いかにも鬱陶しそうな顔をして、3人を見た。


「お前らなんてお呼びじゃねェんだよ」
『ちょ、お前ら……、』
「それはこっちの台詞なんだよ!渉亜はおーれーのーでーすー!」
『いや、違うから!銀時、アンタ激しく誤解してるから!』
「貴様らふざけるな。俺と渉亜は最初っから相思相愛だ」
『ヅラ、それ初耳!』
「ヅラじゃない、桂だと言っておるだろう、渉亜!」
「ヅラ、おんしは人妻好きじゃったろうが!渉亜はわしが貰って行くぜよ」
『いや、変態辰馬とは遠慮しとく』
「は!何言ってんだ、お前ら。渉亜はいつも俺しか見ちゃいめーよ」
『とんだ自信家だな、オイ!』


* * *


「で、」


暫しの沈黙ののち、銀時が口を開く。
その顔はいたって真剣で、笑いが込み上げてきたが、それは、他の3人も同じで、とても笑える雰囲気ではなかった。皆の視線が一斉に集まった。


『えっ……あの……?』
「実のところどうなの?」
『は、はあ、』


そんなこと急に言われましても。


『私、私は……、』


そう言って、私は少し俯いた。
皆が体を前のめりにするのを気配で感じる。


『私は……、』


周りから、ごくり、と唾を飲み下す音が聞こえた。


『皆、かな』
「……」
「……」
「……」
「……」


言ってしまってから、後悔した。
しまった……、はぐらかしとけばよかった。
4人は、呆気にとられていたり、呆れていたり、とそれぞれの反応を示している。
そんな反応されましても、と思いつつ、この4人では決められないよな、と思っていた。皆、私にとって昔からの大事な人には変わりないし、それに変わるつもりもない。この4人と一緒にいるからこそ楽しい訳で、1人選んでしまっては、その関係もなくなってしまうではないか。


『……』


申し訳ないというように、4人を見上げると、銀時が、はぁ、と息を吐き出した。


「あーあーわかってない!渉亜、お前は本っ当に何もわかってないな!」


私が、むっとした顔で銀時を見つめると、また溜息をついて、額に手を置いて、左右に頭をふった。


「……渉亜、お前、意外と欲張りなのだな。1人じゃものたりないっていう」
『そんな事はいってないよ!ヅラ!』
「ヅラじゃない!桂だ!そもそも、渉亜、お前は間違いすぎだ!」
「…あほくさ」


ヅラとぎゃーぎゃー言い争っていると、晋助が呆れたように言って、また刀の手入れを始めてしまった。ああ……もう!どいつもこいつも!!わかってないのも、阿呆なのも全部てめェらのことだァァアアア!!


「くっ、くくく……、」


突然、笑いを堪えるような声が聞こえると思ったら、その主は辰馬で、少し涙目になって、腹部を押さえている。


「あっはっはっは!」
『……何、辰馬。』
「あっはっは、いやぁ、」


そう言いつつも、さも面白いというように、辰馬は笑い続ける。ホント、いきなり何事だよ、こいつは。


「何笑ってんだよ」
「ん……いやぁ、さんにゃらしいな、と思うてのー!」
「まぁ…単細胞が考えそうなことだ」
『な、単細胞!?』
「でも、……なぁ、んー」


銀時は、不満足なのか、眉を寄せて渋い顔している。
辰馬は、またひとしきりに笑った後、涙目のまま、にかっ、っと笑った。


「まぁ、これが丁度いいんぜよ、わしらには」



好音quintet



誰が1番だなんてまだ分からなくっていい。
今のこの5人で笑っていられたら、ただそれだけで十分だ。


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