体温にとける
唇を何度もスライドするそれに観念して、口を少しだけ開けると、さわやかでいて喉を焼くような甘さが広がる。
「半分食べんね?」
聞く前に口の中につっこもうとするやつがあるか。
そんな恨み言も言う気になれず、私は千歳から、アイスを受け取った。
まるでこの雲一つない空のような色をしている。
そんなことを考えながらぼうっと見つめていると、とけて指から腕へと伝う雫がきらきらときらめいた。
「梓月」
呼ばれた声に顔をあげると、千歳は私をじっと見つめたあと、腕を掴んでそのしたたる雫に舌を這わせた。
『ちょっと』
「んー?」
『千歳ってば』
「……なんね」
なんでちょっと不機嫌そうになるかな。
千歳の腕をふりほどこうと、力任せにもがいてみれば、案外簡単に解放されて、その拍子に後ろに倒れ込んでしまう。
ああ、アイスがあんなところに。
手から離れて行ったアイスを追おうと、起き上がろうとしたが無駄だった。
重なった手が、ゆっくりと握られる指が、絡められた足が、だんだんと千歳の体温にとけていく。
千歳の熱っぽく潤んだ瞳を見つめながら、私はまたぼんやりと、とけたアイスはもう元になんか戻らないなんて考えていた。