アイスに口付けを
こんな炎天下で何をしているのだろう。
そんな疑問はすぐに解ける。
彼の手には、なんと、あろうことか、アイスが握られていた。
そこのコンビニで買ってきたのだろうか。
買い食いはよくない、なんて言葉は、唾と共に喉から流れて行ってしまった。
無言で立ち尽くしていると、普段はあまり合うことのない視線がばちりと合って、何かを納得したように頷くと、彼はその手に握っていたアイスを私の唇へと当てた。
「梓月も欲しかったんば?うりっ、かめー?」
断ることもできず、食べかけなんて恥ずかしがることもできず、私はそのまま口を開ける。
少しだけ齧ると、舌の温度でするりと溶けて、甘いバニラの香りが口の中に広がる。
『……でーじ』
「ん?」
『まーさん』
たどたどしい、覚えたての言葉で、知念くんに告げてみると、にっと笑う知念くんが眩しい。
あれ、こんな風に笑うんだっけ。
こんな風に私を見つめてくれていたんだっけ。
顔が近いというだけで、こんなにも彼の知らない表情を知る。
それがなんだかとても嬉しいことのように感じる、この心はなんなのだろうか。
「梓月」
呼ばれた声にはっと我に返ると、彼は少し戸惑うような顔をした。
「やーがちまやーやっさぁ、まだかむんよーやー?」
しょうがない、と言いたげに、笑いながら、知念くんは私にアイスを差し出した。
そうじゃ、ないんだけどなあ。
少し解けたアイスが知念くんの指を濡らす。
私はその指の行先を見つめながら、密かにアイスに口付けた。
リクエスト:知念寛/知念くんとアイス