心臓、ばくばくばく

放課後の図書室。
その一角に経緯はよくわからないがソファが置いてあった。
エアコンも効いて、やけに座り心地が良いそこは、昼休みになると大人気で誰かしら座っている気がする人気スポットだ。
しかし今は放課後。
ほとんどの学生が部活に出ている中、既に引退してしまった私は、人がいないことをいいことに、すかさずそこを陣取って、深く腰を沈める。
うん、やっぱりこの場所は読書に最高。
しかし、今日は水泳の授業があった。
読みかけの本を鞄から取り出して読み始めたが、残っていたほどよい倦怠感が、ゆっくりと瞼を閉じさせてしまった。


それから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
先輩、と聞きなれない声で呼ばれて、ゆっくりと目を開けると、ぱちり、眼鏡の奥の瞳と目が合った。
一気に覚醒して、ばくばくとなり始める心臓に、あなたは誰だと問いかける間もなく、彼が下校時刻ですよ、と言った。
読書をしに来た生徒は私しかいないと思っていたけれど、寝ている間にいつの間にか来ていたのだろうか。
汗もかいておらず、涼しい顔をして、手には数冊の本を抱えている。


『あ、えっと、ごめんなさい』
「戸締りができない、と司書の先生が」
『そ、そうだよね、今でます』


私のせいで残っている生徒がいないか見回りを頼まれたのだろうか。
あまりの申し訳なさと、表情も変えずただ淡々と話す様子が少し怖くて、急いで立ち上がったが、足元に何かが落ちて、私と彼の視線はそれを捉える。
トリコロールカラーの、そう、これは確か、テニス部のジャージだ。
ああ、もしかして!
彼のものだと判断すると、私は慌てて拾い上げて彼に差し出す。


『落としてごめんなさい!かけてくれてたんだよね!?』
「……捲れそうになっていたので」


捲れ……?
気まずげなその言葉に視線を落とすと、確かにスカートの裾が捲れかけていて、さっと血の気が引いた。


『うわ、本当だ!?お見苦しいものを見せてしまってごめんなさい!?』
「ああ、いえ、そんな」
『そんな!?』
「……」
『……』
「……今の発言は忘れてください」


やってしまった。私を気遣って言ってくれたのに過剰反応してしまって、失言したと思わせてしまった。
思わず彼の様子を伺うと、相変わらず無表情。
だけど、よく見ると耳が少し赤いのが分かって、そのせいで、さらに回らなくなってしまった頭のまま、あなたのおかげでゆっくり眠れたよ、ありがとう、と謎の感謝を伝えると、少しの沈黙の後、それはよかったと、あまりにも柔らかく微笑むので、心臓が持ちませんでした。


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