ぬぐい、ぬぐわれ
「お前、それ」
『うん?』
「それ、辞めろよな」
息と息が触れ合うくらいの距離で、丸井は眉を顰めた。
何の話だ。私何かしたっけ。
あ、ちゅーする時に口がくさかったとか?ちゅーの前に餃子食うなってこと?おかしいなあ。ちゃんと歯を磨いたはずなんだけど。
「だーかーらー、それだよそれ」
『どれよ』
「その手」
『手がどうかしたの』
「キスした後、手で唇拭うの辞めろつってんの」
腹立つっていうか、傷付く。
眉をしかめたまま、丸井は私の下唇を食んだ。
「何、お前、俺とのキスやなの?」
『やじゃないよ』
「じゃあ辞めろって」
丸井の唾液だか私の唾液だかわからないものが下唇を濡らしていて、それを舐めとるのはなんだかはばかられて、私は丸井の目を見ながら手の甲で唇を拭った。
よりいっそうぎゅっと眉間に皺を寄せたまま、丸井は私の頬を包み込んで、また唇を落とした。
手で拭う暇も与えないほどに、啄まれ、食まれ、舌を這わされて。ねっとりと絡まった舌の先を噛まれた。
「てんにはもう拭わせてやんねーから」
丸井は、近すぎてぼんやりしたところで悪戯っこのように笑って、再び私に深く深く口づけ始めた。