しとしと

さっきまで青空が見えていたはずなのに、どうしてこうもうまくいかないんだろうか。
ぽつぽつと地面を濡らし始めた雨は、いつの間にか大降りになり、青い空を灰色の雲が既に隠してしまっていた。


『ねぇ、今日あんのかな?』

「知らん」


扇風機の前を陣取っていた仁王が、私を少しだけ見て、それだけ言った。
私も、あっそ、とだけ言って、スマホで友達に連絡する。
そもそも仁王に聞いたのが間違いだったのよ。どうせ祭りなんて仁王興味ないし、っていうか人混み嫌いだし、暑いのやだって言うだろうし。今日だって、祭り行くねって言っても、そうなん、としか言わなかった。


『出店だけやってるみたい』

「がんばるのう」


私たちは行くけどてんはどうする?と言う友達に、私は一瞬仁王を見て、私も行く、と返事した。私としても、化粧もばっちりした後だったし、浴衣にも着替えた後だったから、もう行くしかなかった。


『じゃあ、私行ってくるから』


相変わらず扇風機の前から動かない仁王に、そう告げて通り過ぎようとした時、ふと手首を掴まれた。


「誰と行くん」

『友達』

「誰」

『中学時代の同級生』

「誰、と聞いてるんじゃ」

『……ゆりえとあきとじゅんぺい』


掴まれた手首をそのままに引き寄せられ、私は仁王に倒れ込む。
着崩れるじゃないって怒ろうとして顔を上げたら、仁王の顔がすぐ近くにあって、そしてそのまま口づけられた。


『な、何すんの』

「そのグロス、いつもつけんじゃろお前さん」

『だからなんだっていうのよ』


仁王の唇に、私のグロスがついている。
その唇が、ゆっくりと動き、嫉妬という言葉がこぼれた。
口の端をあげ、笑う仁王に少しだけぞっとして、未だにほどけない手首に、私は友達に心の中で謝るしかなかった。


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