悪夢
いや、正確に言えば、寝ると悪夢を見てしまうというものだった。
だから寝るのが怖い、と梓月はため息を吐いた。
「ぐーすかぴーすか寝てんじゃん」
『もう切原嫌い』
ぷいっと体ごとそっぽを向いた梓月の頬を包んでこっちを向かせると、何すんだと非難の目が刺さる。
「それ、取り消せよ」
『はいはい』
手をふりはらわれて、もう一度向き直る梓月に、原因は?と聞くと、ただ首を振るばかり。悪夢を見る原因すらも分からないらしい。精神的なものだろうか。自分も時々追い詰められた時とかに見てしまう、それかもしれない。
「なんか悩んでんじゃねーの?」
『そうかも』
「お、素直」
『無意識に悩んでんのかも。だからこそ、悪夢見てんのかもね。ていうかじゃないとやってらんないっつーか』
そう言った梓月はいつもより憔悴しているように見えたし、それに、その目の下の隈は見間違いではなさそうだった。
「寝れば」
『悪夢見るかもじゃん』
「俺がそばにいるし」
『は?』
「悪夢なんか見させてやんねーって」
少し驚いた顔をした梓月の頭を撫でると、ま、期待してるわ、なんて笑って伏せた梓月に、逆に悪夢を見そうな気がした。