春に落ちる


「なぁ、梓月さんって、俺のこと好きやと違いますか」


このお方は何をおっしゃっているのでしょうか。
駅のホームで友達と一緒に電車を待っていたら、名前も知らない男の子が突然目の前に現れた。彼の隣にいたブリーチ頭の男の子も、口をあんぐりと開けて驚いている。


「梓月さん」
『え、あ、あの……』


そもそもどちらさまでしたっけ、なんて質問は、ブリーチ頭の男の子にさえぎられ、そして謝られた(何故君が謝るのか)。最初の男の子は、その彼に背中を押されて去ってしまった。
何だったのあれ。さあ、なんだろうね。私は友達と二人でそんな会話をして、首を傾げあった。

その次の日。


「四天第二高校の梓月てんさん」


彼はまた、私の目の前に現れたのだった。
ひらりと手を振って、私の手を握る。
いやいやだからさ、なんだっていうの。ていうか誰なのあなた。


『えっ、中学生なの?』
「おん」

彼の押しに、負けに負けて、近くの公園へと移動してきた私たち二人は、ベンチに腰をおろした。
話を聞くとどうやら四天宝寺中学の3年生らしい彼は、白石蔵ノ介と名乗った。頭一つ分くらい大きいから全然分からなかった。でも、そんな中学生の白石くんが何故私の名前を知っているのか。しかもどうして、あんな言葉を発したのか。


『で、どうして白石くんは私のこと知ってるの』


びくりと肩が揺れて、そして、苦笑いしながら私を見て来た白石くんに、ハテナマークを浮かべていると、生徒手帳、と一言。
生徒手帳?生徒手帳がどうしたのだろうか。


「やっぱ。覚えてへんかったんですね」
『?』
「俺、ずっと前に、梓月さんが落とした生徒手帳拾ったことあるんです」


4月、駅でたまたま生徒手帳拾って、中の写真確認したら、角を曲がっていく梓月さんやと分かって、それで、急いで追いかけて、捕まえて、手渡して、そんでずっと梓月さんのことずっと覚えとって。
ゆっくり、たどたどしく話す白石くんは、最初のあの言葉を放った時の印象なんてまるで無い。

一目ぼれしました。

そう言って、私を真っ直ぐ見つめてくるその目は、とてもとても純粋なものだった。
どうして、あんなこと最初に言ったの?
そう問えば、そんなん気を引きたかったからに決まっとるやないですか、と、ちょっとだけ怒られた。


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