ルーティーンの罠

部屋の中で靴下をはくのが苦手だ。
家に帰りつくなり、黒のソックスをつま先から引き揚げてそのまま洗濯機の中に放り投げる。それが私のルーティーンなのだ。そう、クセ。
クセだから、当然、好きな人の前でも私はそのルーティーンを行ってしまったのだ。
やってしまった、そう思った時には時すでに遅し。弧を描いて私の靴下は綺麗に洗濯機の中に消えて行った。
恐る恐る振り返れば、ぽかんとした宍戸くんの口がナイスシュー、と動いた。
ああ、靴下と共に私も消えてしまいたい。


「俺、梓月さんのことすっげーお嬢様だと思ってた……」


無言のまま自室に案内して暫く経ったのち、宍戸くんは夢でも見ていたかのような顔で呟く。
そうだね、そうだよ、だって私超お嬢様演じてたから。だってだってあの氷帝だよ?その氷帝に通うのに、一般家庭だなんてあまり言えなかったし、周りに合わせられるように努力していたわけだし。それがまさか、こんな形で、ボロが出るなんて誰が予想していたか!しかも!まさか思いを寄せている彼にばれてしまうだなんて!
我が人生一生の不覚。


『後生ですからなにとぞ……なにとぞこのことはご内密に!』

「へ、え、ああ……」


ああ、がっかりされてしまっただろうな。私がこんな庶民だったなんて。雨宿りという口実に家で二人っきりとは天才的なんて思って、傘を忘れた宍戸くんを呼び止めて誘ったのは私。私のせい。私の下心のせいで、宍戸くんに嫌われた。自業自得だ。こんながさつで庶民な私、宍戸くんなんかが相手にしてくれるわけない。ああ、これが失恋っていうのね……まだ告白も何もしてないのに失恋だなんて。
思いっきり項垂れて、でも何も出さないのも失礼だから、お茶持ってくるね、と小さく声をかけると、後ろで宍戸くんはふきだした。


『えっ、えっ、何?な、なんで笑ってるの!?』

「いや、ごめ……っぷっあは、あははは!なんつーか俺、すっげー安心したわ、はーおもしれえ!」

『ええっ』


にっと口角を上げた宍戸くん。


「俄然親近感湧いた」


あれ、これはまだ嫌われてないってことでいいのでしょうか?


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