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幕が切って落とされた。
学校中に響き渡る地響きと、獣のような叫び声。
誰もがああまたかという呆れ顔を見せる中、私は真剣な顔でその横を走り抜けた。

スタートダッシュが決まったやつは勝ち組となる。

そう、私は今、その勝ち組となったのだ。

テニス部部長、幸村精市。
その人気は言うまでもなく、この有り様だ。
朝練、放課後練習、土日練と、それぞれで開催されているわけだが、興味の無い人間にとっては、「たかが幸村部長にドリンクを渡すだけなのにこんな大げさな」と思っていることであろう。
確かに、幸村部長にドリンクを渡すだけだ。
そう、渡すだけ、である。しかし、ここには幸村部長とお話ができるという接触イベントが待っているのである。しかもただ一人の特権となれば、幸村部長に恋焦がれるこの立海大附属の女子が騒がないわけがない。
そう、これは幸村部長自身を賭けた、壮大なレースなのである。

テニスコートはまだ遠い。
スタートダッシュに成功し、勝ち組に居れど、まだ油断はできない状況だ。
ここにくるまで約二年半。長い年月だった。
最初はあんなに後ろにいたのにな。コートすら見ることができない最後尾。あれが私の定位置だったのに。
私自身もテニス部に入り情報を収集し、足腰を鍛え、さらには、非公式ファンクラブで下っ端として働き続け、上層部に取り入った。
そして、今ではほら、目の前にテニスコートが見えている。
そこに凛々しく立っているのが、そう、恋焦がれ続けた思い人。
ああ、もうすぐだ。
もうすぐ、あの方の手に。

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