10 / 09

アトベサマの誕生日から、明けた月曜日。
未だ浮足立つ空気はそのままに、お昼になった。
氷帝学園は言わずとしれず、超お金持ち学校。昼休みに教室でお弁当をつつく人間なんてごくわずかで、それは庶民であることを目に見えて表すせいか、皆無理をしてでも食堂へと向かう。
それを横目に、自分の机でお弁当を広げる私は、そう、まぎれもないTHE庶民だった。
今日のおかずは、卵焼きに冷凍ハンバーグ、付け合わせの和え物におにぎり。
母が作ってくれたそれは、いたって普通。
だけど、今日のおにぎりの具はなんだろう、とか、今日の卵焼きの甘さはちょうどいいかな、とか、そんなことを考えながら、人のほとんどいない教室で静かに食べられるのは、逆に私にとって心穏やかなひと時になるのだ。
しかし、今日はどうにも調子が狂う。
アトベサマバースデーの余韻だろうか。
いつもは一目散に教室を飛び出る、隣の席の向日くんが未だ席についたままなのだ。
それどころじゃない、彼がスポーツバックから取り出したのは、まさかのお弁当。
あの有名テニス部の部員が、まさか。
鼻歌混じりにお弁当を開けて、目を輝かせる様子はなんだか年相応に見えて、大きく口を開けて、からあげを頬張って、上機嫌でさらにおにぎりにかぶりつく。
無縁だ、なんて思っていたから、その様子がどうにもちぐはぐで、おもしろい。
ついじっと見つめてしまっていたのだろう。
ふと彼と目が合って、急いで逸らしたけれど、どうやら見逃してくれないらしい。
しょうがねえなあ。
なんて言いながら、私のお弁当のふたにからあげを乗せると、そのまま卵焼きを奪っていった。


「俺の母ちゃんのからあげ、すっげーうまいぜ」


なんていうから、私のお母さんの卵焼きだっておいしいんだよ、なんて思わず張り合っていた。

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