11 / 01

【向日岳人にプレゼントを渡さないと出られない部屋】

「……」
『……』
「……」
『これが噂の○○しないと出られない部屋……』


お互い顔を見合わせて、さらに、ドアの上にででんと立てかけられた看板の文字を見つめて、ぽつり、つぶやかれた言葉に、現実味が帯びてきた。
いやいや、こんなの、妄想の世界だろ。どう考えたって、現実なわけがない。
そう思いたいのに、あの高笑いが聞こえてきた気がした。


「クソクソ!ぜってー跡部の仕業だろ!おい!どっかで俺たちのこと見てるんだろ!?返事しろよ!」


壁の向こうに向かって、もしくは隠されてるかもしれないカメラに向かって吠えてみても、言葉なんて返ってくるはずもなく。
一緒に閉じ込められたこいつは、相変わらず好奇心旺盛だなあ、なんてただただ呑気な言葉を漏らす。


「お前もなんでそんな冷静なんだよ!もっと焦れっての!」
『そういわれてもさあ……私何も持ってないし、既に詰んでるんだよ』
「はあ?なんかねーのかよ」
『なんもないね……こういう時に限ってお菓子も鞄の中だ』
「クソクソ!」


いつもなら、おなかすいたなんて言って、ポケットからお菓子を取り出してるくせに。
こういう時には持ってねえとか、こいつの運の悪さも大概だろ。


『んー……』
「本当になんもねえの?」
『うーん……』


制服のポケットの奥底を探りながら、云々と唸るが、その手には何もひっかかってこない様子。
……これは、さ。
もう、しょうがないよな?
ひとつだけ、思いついた提案を告げようと、未だ探る手を掴もうとしたが、突然大声を出してこちらにずずいっと身を乗り出された反動で、思わず飛びのいてしまった。


「急になんなんだよ!」


さらにずずいっと身を乗り出して、手の中にあるものをちらつかせる。
なんだこれ。


『ヘアゴムならあった!すっごいファンシーなやつ』
「い、いるかよ!」
『まぁまぁ、受取りなって、はい』


にやにやとしながら、嫌がる俺を捕まえて無理やりその手に乗せてきた。
思わず受け取ってしまったそれを、まじまじと見れば見るほど、うんざりしてくる。
こんなのプレゼントどころか嫌がらせだ。扉も余計開く気配がなくなった気がする。


『んー、うんともすんとも。こんなんじゃダメか』


ダメに決まってるだろ、なんて言い返してやろうと思えば、俺の手からヘアゴムを奪うと、そのまま俺の背後に回った。
なにするつもりだ、こいつ。
逃げようとすれば襟をつかまれて、その拍子に尻もちをついてしまった。


「何すんだよ!って、俺の髪掴むなよ!」
『じっとして』
「うっ、」


髪を梳くたびに、指のはらがかすかに肌に触れて、ぞわぞわする。
いつもより近いし、なんかいい匂いする気がするし、ああ、だめだ、なんかくらくらしてきた。
よし、と小さくつぶやく声が、耳元をかすめて、軽く肩をたたかれる。


『ふはっ』
「おい、何笑ってんだよ!」


軽く自分の手で触れると、器用に編み込まれた髪が、先ほどのファンシーなヘアゴムでまとめられていた。
未だ、ふふふ、と楽しそうに笑うので、恨みがましく見上げれば、ぱちり、目が合って、さらに笑われた。


『いや、案外、かわいいって』
「男にかわいいとか」
『似合ってるよ、向日』
「っ、」


見たこともない顔で、微笑むから、なんだか、胸をぎゅっと掴まれて、どんどん鼓動が早くなる。
言ってしまおうか。このまま。ずっと言いたかった気持ちを。
そう思って、口を開いた瞬間、かちり、と音がした。
まさか。


『あれ、開いた』
「え」
『なんだよ、向日そんなにこれ欲しかったのか』
「そ、そんなんじゃねーよ!クソクソ!」


またいたずらっぽく、にやにやとするので、つい悪態づいてしまう。
改めて自分の気持ちを分からされて、なんとも言えない気持ちになって、もう一度ゴムの飾りに手を伸ばす。
こんなのもらって嬉しくないのに。嬉しくないはずなのに。
さあ、帰ろうか、なんて、さっさとドアノブを回すそいつに、なんだかな、と思いつつ、さきほど言いかけた言葉は、再び奥へと落ちていった。

BACK
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -