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「お祭りに行きませんか」

二人で。そう付け足した柳生くんは耳まで真っ赤だ。あの紳士でいつもしゅっとしている柳生くんがもじもじとしているのはなんだか少しおもしろかった。
別に断る理由もないし、もちろん、と答えると、柳生くんはそれはそれは嬉しそうに笑った。



「すみません、遅くなりました!」

慌ててかけてくる柳生くんは、慣れない下駄のせいか目の前でこけそうになった。
でも柳生くんの浴衣姿、とても素敵。しゃんと伸びた背中、姿勢の良さに、所作も美しい。ほうっと見とれていると、柳生くんは、浴衣姿素敵ですね、と微笑んだ。そんなめっそうもない。柳生くんの方が美しいよ。そう言うと、柳生くんは真っ赤になってしまった。


射的に立ち寄ると、柳生くんは少し自信が有り気。案の定、こういうのは得意なんです、と銃をかまえた柳生くんは様になっていて、百発百中命中させていた。すごいな、やっぱりかっこいい。景品のぬいぐるみを、今日のお礼です、なんて言ってくれた。そんなお礼とか別にいいのにな。

金魚すくいに立ち寄ると、柳生くんはとても真剣に金魚と見つめ合っていた。だけれど、ポイはすぐに破けてしまう。私が三匹すくった時、柳生くんは一匹目をようやくすくいあげて、「ほら見てください!すくえましたよ!」と嬉しそうに言うものだから、私はそっとボウルの中の金魚を水槽に返した。

綿菓子屋さんに立ち寄ると、柳生くんは、綿菓子が出来る様子をじっと見つめ、できあがると私たちの顔より大きい綿菓子を一生懸命頬張っていた。なんだか大人びていると思っていた柳生くんは、私たちと全然変わらないんだなあ、と少しだけ安心した。

柳生くんはあまりこういうところに来たことがなかったのかもしれない。
目をきらきらと輝かせて、次はあっち次はあそこ。私の手をひく柳生くんの力はどんどん強くなっていく。

『い、痛いよ、柳生くん!』

その言葉にはっとした柳生くんが私を振り返り、それはそれは申し訳なさそうに眉を下げて、すごい勢いで謝るものだから、全然怒れない。目に見えてしゅんっと落ち込む柳生くんに、逆に申し訳なくなっていると、背後から大きな音。

『花火だ』

そう呟くと共に、柳生くんの手を優しく握って、先導する。
確かあの階段をのぼったところが穴場だった気がする。
のぼりきると、開けた視界に花火が次々と打ち上がる。
私たちは二人顔を見合わせて、綺麗だね、と笑った。
暫く一言も話さずに花火に見とれていると、柳生くんが私の名前を呼んだ。
隣を見上げると、とても真剣な顔。
柳生くんの唇が動いたと同時に打ち上がる花火。
なんといったか聞こえない。
聞き返したけれど、柳生くんは口を手で押さえてそっぽを向く。
なんだったんだろう。
気になるけれど、それ以上口を開きそうにない、柳生くん。

『また来年も一緒に見にこようね』

来年になれば彼もまた聞かせてくれるかもしれない。
柳生くんを見上げると、それはもうものすごい勢いで返事をされた。

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