140


140字から500字程度のとても短いお話です。
ジャンルは雑多。各連載の設定でお送りしております。パロディ、パラレル、未来設定なんでもありです。ツイッターで投稿して溜まってきたら気紛れに更新します。

恋人だった
i7(ダンマカ) / ロイエ


「僕ら、恋人だったんだよ」
 そう彼女に話してすぐに理解してもらえたらどれだけ簡単だっただろうか。自分を苛む趣味なんてないから、そんな願ったり叶ったりの奇跡に縋りたい心地にだってなる。
「僕ら、恋人だったんだ」
 ぶっちゃけ「それがどうしたの?」って顔をされると思っていた。最初こそただただ困惑に染まった顔をしていた。前の彼女よりも表情は豊かだと思うけれど、本来の彼女はこれくらい豊かだったんじゃないかと確信に近い感想が出てくる。照れた時なんて、いつもこうして耳の先を赤くさせてたし。たとえ忘れられて、他人になったって。変わるものは、ほんのささやかなものにしか過ぎないんだ。
「千回振られても諦める気はないから」
 だからどうか、覚悟してね。

 僕の愛しいひと。

2023/03/15

来世は他人がいい
i7(ダンマカ) / ロイエ


 遠退いていく意識の中で、真っ先に浮かんだのは彼の顔だった。プツリと呆気なく切れてしまうその時まで、それは振り払っても振り払い切れないだろう。彼だって、そういう人だから。
 だからこそ、彼に追い掛けて欲しくない。堕ちていく私をどうか追い掛けないで。
 そんな真っ赤な祈りの中で、その人はそれに応えるかのように酷く苦い顔をする。
 だから、私は堕ちていく中で願いを託した。確かな成就のために。

2023/03/15

いい夫婦の日
i7 / 折笠さんち


 父は所謂世間をときめかす『アイドル』という職業に就いている。『Re:vale』というデュオユニットを組んでから二桁の年数になるほど芸歴は長い。父たちの芸風――と言ってもいいのかわからないが、ユニットの形は一言で表せば『おしどり夫婦』になる。何言ってるんだって話だが、僕も何言っているかはわからない。
 しかし僕が生まれる前から彼らはその形で在り、今もそれを持続させている。11月22日に冠番組の放送日が重なった時なんかは、『いい夫婦の日特番』なんかも組まれている。
 母はRe:valeの大ファンだ。件の特番も間に合えばリアルタイムでテレビの前に座って、浮き浮きと楽しげに観ているくらいに。幼い頃はその光景がなんとも不思議に思ってはいたけれど、父達がテレビに映る姿を眺める母の横顔は、柔らかい陽射しが降り注ぐような柔らかいものであったから、次第にその不思議はいつの間にか何処かにいなくなっていた。

2022/12/06

君を季節に例えるなら、
i7(空咎) / 烏天狗


「春だな」
「春、ですか?」
 華を拾った当初は、まるで地を這って咲く矮小な華のように見えたことから彼女にその名を授けた。しかしそれは意外にも逞しく、今も枯れずに美しく咲き誇り、柔らかな陽射しが射すように温もりを与えてくれる。
「だからこれからも、暖めてくれよ」
 支離滅裂な結論と渇望に華は困った顔で首を傾げたままだが、別に伝わらなくていい。天変地異が起きない限り、傍に在ってくれるのだから。

2022/12/06

愛されてるのに、気付いてください
i7(星巡り) / カース


 助けたのは、たった一度だけ。
 それなのに彼女は恋でもするかのように瞳を輝かせながら白き竜を追い続けていた。いつしかその直向きな姿に、ホープへ向けるものとはまた別の気持ちが芽生え、そこから目を背けた。私には身に余る代物であったから。
 けれど、今は違う。
 もう、私は彼女の憧れになれないけれど、諦めていたものをこの腕の中に納めたくて。すり抜けそうな手首をしっかりつかまえた。

2022/12/06

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