▼!1日目

ここんとこずっと働き詰めで幻覚でも見ているのでしょうか。
マジモン?マジモンなのコレ?
酔っていたとはいえ…、いや、うん…。

マジモンなんて年齢がバレそうで怖い死語だけど、言いたくなったのは仕方ないよね。



「 モシッ!モーーシーー? 」

『………………可愛いね、お前』






話は数十分前に遡る。

私は深夜、コンビニのバイトが終わり、帰宅中だった。

電灯がチッカチッカと頼りない光を放つ中私は、仕事後の一杯を行きつけの個人店で引っ掻け少しほわほわとしながら歩いていた。

そして電灯が途絶える道を歩いていれば前方からこちらに向かってくる蝋燭のような光。
誰かが蝋燭を持っているのだろうと思考するが、とたんに疑問が浮かぶ。

この時代に懐中電灯じゃなくて蝋燭?

不審に思いながらも近付く光を見つめれば、もう持つ人が見えてもいい距離のはずなのにまだ持ち手すら見えない。

その事実に怖くなり、たじろぐ。


「 …シッ…モッ…… 」

『………?』



光に近付くに連れて聞こえた声。
小さな、本当に小さな声だったけれどその声が涙声だったということに気づいた。

ああ、誰かが悲しくて泣いているんだ。
そして多分その誰かは目の前をふよふよ漂う光の主なんだなぁ。

と、何故か妙に納得が出来、怖さなんて吹き飛んだ。
代わりにその声の主を助けなければという気持ちが浮上した。



「 モ゛シッ!モ゛ジィ゛ッ…! 」



ハッキリ聞こえた時、私はその光を思わず駆け出して抱き締めた。



『大丈夫だよ、怖くないよ、君は1人じゃないから』



感覚なんてあるはずないのに確りと感覚があった。
あれ、酔ってるからかな。
魂ってあったかいんだな…

ほろ酔いの体はもうちょいこの温かさが欲しいらしい。

ぎゅうっと抱き締めた。



「 ブ、…ヂィッ!!!!!!! 」



胸元から助けを求める苦しげな声。

ぱっと抱き締める力を無くして腕の中に居た生物をガン見する。



『…ヒ、トモシ?』

「 モシッ! 」



ぷんぷんとしている様子から、酔っ払いの手加減が出来ていない力が気に入らなかったようです。

なんでヒトモシなんているんだろう?

もしかして私、道端で夢見てる…?!


そう思った瞬間背筋が寒くなって頬をつねる。

痛い。

お母様、ここは現実なのですね。



「 モシー? 」

『あ、ごめんね。私酔ってるから力加減出来なくて…』

「 モーシモーシ、モーシー 」



とんっと胸を張って頷くヒトモシ。
これはたぶん…僕(私?)はタフだから大丈夫、次からは気をつけてと言いたいのかな。



『うん…?ありがとうでいいのかな。……とりあえずヒトモシ君。私と一緒に来てくれる?』

「 モシー! 」



と、言うことで今にいたる。
だけどいくら考えてもヒトモシがこの世に存在しているのが不思議でならない。

ゲームのキャラが目の前、それも置いてあった葡萄を食べているなんて…。



『…美味しい?』



ヒトモシはゲームの世界からこの世に来た。
今の私に理解出来るのは確かに目の前にヒトモシと呼ばれた生命体が存在していることと、葡萄を食べるという事実だけだった。



「 ン、モッ…シ!…ムグ 」



口の中に沢山粒を放り込んだみたいでハムスターみたいな頬をしながら元気に答えた。

お腹すいてたのかな?

多分いきなりこの世界に放り出されて怖かったであろう。
それにお腹が空いているってことは歩き回っていたってことに繋がる。

私と出会うまで何時間歩いていたのかな、なんて思うとかなり申し訳なく感じるとともに、よく私以外の人間に出会さなかったな、と。



『沢山お食べ。葡萄ならまだ冷蔵庫にあるから』



コクコクと頷くヒトモシに癒される。
ゲームではわからぬ可愛さがそこにあって、凄くゲームの中のトレーナー達が羨ましくなった。



『ヒトモシ、私お風呂に入ってくるからゆっくり食べててね?』



食べることに夢中になってるヒトモシに一言かけてリビングを後にした。




君に出会った
私以外の他の人と出会わなくてよかったと思うのは只の優越感。

20120404

やってしまった新連載…永久も終わってないのに何してンだろ。

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