【光の雨】

大きく開け放たれた窓。
夏が近いせいか、吹き込む風はとても暖かで……。

リディアは思わず表情を綻ばせた。

「……気持ちよさそう……。」

……風そのものが、ではなくて。
窓辺に置かれた背凭れのなだらかな椅子に身を預けたその姿。
体を撫ですれちがう風に金の糸が艶やかにそよぐ。
彼女が微笑ましく見つめるのは、優雅にうたた寝をするカインだった。

煌めく光が少し眩しい。
……太陽の光がよく似合うと、思った。
暖かな輝きはその柔らかな髪、安らいだ表情を映えさせる。

「あ……」

影を落としていた睫がかすかに揺れ、翡翠が覗いた。

「ごめんなさい、起こしちゃった?」
「いや、いい。 うとうとしていただけだから……」

溜め息を吐くように囁いてカインは再び瞼を伏せる。

「……てっきり胸を刺しに来たのかと思ったが」
「えッ? ……なんでそんな……」
「……冗談だ」
「…………」

爽やかな風に気まずい空気が混ざり合う。
複雑そうに表情を曇らせるリディアを見もせずに、カインはただ眼を伏せたまま微動だにしない。

「なんでそんな……、か……」
「あたし、しないよ」
「解っていて言った」
「……できないもん……」
「……だろうな」

再び瞼が開き、そこで漸くカインが少女を見つめた。
……迷子のようなその顔に、思わず苦笑する。

「気にしなくていい、俺の言うことなど。 お前が…復讐などとそんなことができるやつではないことも、よーく……解っている」
「…………」
「悪かったな」
「何か、あった?」

ぼんやりしているようで、鋭い。
カインは上体を起こすと視線だけを彼女に向け、微笑した。

「何もないさ」

確かに何もなかった。

けれど

「ただ、夢を見ていた。」
「……イヤな、夢だった?」
「……まぁ、あんまり」

視線が逸らされ、翡翠が空色を映す。
窓の向こうは晴れ渡っているはずなのに、それよりも深い、蒼。
安らかそうに見えていた寝顔。
けれどもそうではなかったらしいことに、リディアは眉尻を下げて彼を見る。

「内容、聞いても平気?」
「…………」
「無理には、聞かないけど……」
「楽しい内容じゃなかったからな、それにもう忘れた」
僅かにリディアを見、自嘲気味に頬を緩めた。
応えるように彼女は微笑いカインの座る椅子に凭れ、床に腰を下ろす。

「……あたし、みんなが好きよ」
「そうか」
「みんなカインのことが、好きよ」
「……そう、かな」
「……あたしも、カイン大好きだよ」
「…………そうか」


「誰もカインを傷つけたり、しないよ……」
「……うん……」


難しいことは何一つなく、長ったらしくもない。

……参った……。

どう裏を探ってもそれ以外の意味はない、真っ直ぐな言葉にカインは思わず空を見た。
少し顔が熱くて隠すように髪をいじる。

そんな彼の様子にリディアは微笑した。


すぐ手の陰になってしまったけれど、一瞬見せたその表情。


幸せを湛えて僅かに綻んだ口元に、自分の言葉が違わず通じた証を見た気がした。


おしまい
(05'08/12公開)
10000hitスピカ様のリクエストでした。
 
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