【To You 3】

「いーい? 入るわよ、リディア」

カチャン、と小さな音がしてゆっくり扉が開く。
あたしのことを心配してローザが部屋に戻ってきてくれた。

「リディア……! 大丈夫!?」

涙でぐしょぐしょになったあたしの顔を見て、ローザは慌ててハンカチを出してくれた。
けど、ローザの顔見たら何だか気が抜けて……ハンカチも受け取らないままで思いっ切り泣いて。
ローザは何も言わないで、ただ背中を擦ってくれていた。

ふと……自分の手の中で何か硬いものを握り締めていたことに気づいた。
そっと手を広げてみると手紙にはめられていた銀色の輪っか。
よく見ると竜の模様が細かく彫り込まれていて、……何だか見覚えがある……。

これは……。

「カインがつけてた……指輪だ……?」

言いながらローザに見せた。
彼女はそれを手に取って、じぃっと見つめる。

「ホントだわ……。 これ、確か彼の亡くなったお父さんの形見の指輪じゃなかったかしら……?」

ちょっと待ってて、とローザは指輪を持ってドアのところから部屋の外にいるセシルに声をかけた。
部屋に入ってきた彼にローザが指輪を渡す。

「ね、これって、カインがつけてた指輪よね?」
「……確かにそうだ……。 こんな大事なもの、手紙の留め具に使ってたなんて……気づかなかったな……」

ふと、セシルがあたしの方に視線を向けた。

「君に、渡したかったんじゃないかな……?」

セシルがこちらに歩み寄り、あたしの手にそっと指輪を乗せる。

「あたしに……? どうしてこんな、だってお父さんの……」
「何だかんだ言っても、やっぱり君に自分のこと覚えてて欲しかったんだよ、きっと……」

なによ……。
なによ、カイン……。

「それなら1人でどこか行ったりしないでそばにいてくれたらいいじゃない……、なによ……」

またじわっと目の奥が熱くなって涙が溢れた。

「なによ……カイン、ばかぁ……!」

どれくらい時間、経ったんだろう。
いつの間にか、外はすっかり日が落ちて三日月が輝いていた。
もう、散々泣いた。
全部出し切ってしまったら何だか頭、すっきりして。
自分が今何をしたいと思ってるか、なんてそんなこと考えるまでもなく頭の中に浮かんでる。
あたしはパッと、顔を上げて「あたし、カイン探しに行くね」

部屋のソファであたしが落ち着くまでずっと待っててくれてた2人にそう言った。
2人とも一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに微笑って。

「1人で、行くのね……?」

確かめるようにローザが言う。
あたしは迷わずに頷いた。

「僕らもしばらく探したけれど、結局見つけられないままなんだ。 ……もし彼を捕まえたら、心配したんだぞって……僕の代わりに1発、ひっぱたいといてくれる?」

セシルの言葉にみんなで笑って、でも、その裏にはカインを見つけられなかった悔しさと、この広い世界で1人の人を探すのがどれだけ困難なのかが感じて取れた。

でも……

「了解! ばっちり殴っとくね」

ふふ、と3人で微笑って。

「……気をつけて」
「うん」
「どうか、彼を見つけてあげてね……」
「……うん」

手の中にはカインの手紙と指輪。

「必ず、探し出すよ」

その日のうちに手伝ってもらいながら旅の用意をして、翌日。
あたしは2人に見送られ、当てもないままにバロンを出発した。


……ね、あたしにもあなたに言いたいこと、あるんだよ、カイン……。
あなた、気づいてくれなかったのね。
あたし、ずっとカインのこと見てたのに。
だけどあたしもカインがそんなふうに思っててくれてたこと、気づかなかった。
……お互い様だよね。

だけどもう大丈夫。

……会えたらとりあえずセシルの代わりに平手打ちして……、その後のことはまたその時に決めようかな。
今はただ、あなたに会うために旅をするだけ。
首にかかった皮ひもの先にはあなたに繋がる銀の指輪。
これが、あたしをカインのとこまで連れてってくれる……そんな、気がして。

「一緒に星、見るんだよね、カイン……」

あたしは太陽の輝く空を仰いだ。


おしまい
(06'11/30)
 
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