【To You 2】

僕らは外に出てるから、と2人は政務室を出て行った。
部屋にはあたしだけ。
何だかすごく緊張してきて……、思わず紙の筒をクシャッと握り締めてしまった。
震える手で輪っかを外して、その手紙を開く。

『今、月へと向かう魔導船の中でこれを書いています』

読みやすい、綺麗な文字が並んでる。
手紙になると敬語になる、そんな意外な癖に何だかカインが可愛く感じた。
……彼が聞いたら怒りそうだけど……。

『俺たち3人だけでゼムスと戦おうとしているのを君は不安な気持ちで待っているのではないかと思います。
けれど、この2人だけは何があっても必ず生きて帰します。
どうか安心してください』


何だか違う人が書いたみたい……、なんて思いながら次の行に視線を移した。


『俺はそちらに生きて戻る気はありません』


………生きて戻る気はない………
カインは死ぬつもりで魔導船に乗っていたの……!?
思いもしなかった一文に、あたしは心臓をつかまれた様な気分になった。

『もし生還するようなことがあったとしても、君には会わずにどこか遠く、姿を消すでしょう。
こうして手紙を書くことにしたのは、ひとつ君に言っておきたかったこと、きっともう伝える機会はないと感じたからです。
ひょっとしたら、君がこの手紙を目にするのは何十年も過ぎた後かも知れない。
それとも、誰にも読まれることなく俺と共に朽ち果てる運命かも知れない。
それでも何かに書き残しておきたかった。
いつか君に見つけてもらえたらいい、ただそれだけです』


……1枚目はこれで終わり。

すっかり丸まってめくりにくくなってしまった便箋を破いてしまわないように、そっと剥がして2枚目の後ろにまわした。

『情けない姿をさらして戻ってきた俺に、君は今までと何も変わらない笑顔を向けてくれた。
これまでの旅の途中も、君の明るさや言葉に何度救われてきたか解りません。
ただ君が隣にいてくれるだけで、安らぎを感じることさえできました。
……もう二度と、誰かに対してこんな感情を抱くことなどないと思っていたけれど、こういうのは……自分の手の届かないところにあるために、どうしようもありません』


次の行の書き始めがすごく滲んでた。
ペン先をトントン当てたような跡があったりして……きっと言葉に迷ったんだろうな。
あたしにまっすぐ伝わるように、自分が知ってる言葉の全てから、どんな風に書いたらいいか、きっとすごく悩んでくれたんだ、カイン……。

いつの間にか視界が滲んできて、だけど続き、読まなきゃ。
だってそこには私が望んだ言葉があるの。

カインに言ってもらえること、ずっとずっと……望んでた、言葉が……。



『リディア、俺は君のことが好きです』



………嬉しくて、すごく嬉しくて。
それに切なくて、どうしよう……涙、止まらない……。
でも手紙はまだ終わってないから、眼からポロポロこぼれる雫を手で拭って。


『……君にとって、俺のこんな想いは邪魔になるだけかもしれないけれど、それでも、1度だけでいい。
これが、俺から君に伝えておきたかったことです。
忘れてくれて構わない。
後はただ、君が幸せに暮らしてくれることだけを祈っています。
…窓の外は星がとても綺麗です。
いつか2人で夜空を眺めた時のように君と一緒に見ることができていたなら、これ以上にない人生で最高の思い出になったことでしょう。
それができないのが……少しばかり、心残りです。
……それでは。

カイン・ハイウィンド』


これで、手紙は終わり。
あたしはただ泣くことしかできなかった。
だって、ここにはカインがいない。
返事を返したくたって、カイン、ここにはいないじゃない。
カインがどんなに私の幸せを願ってくれてたって、あなたがここにいてくれなきゃ、幸せなんてないじゃない…。

「ずるいよカイン……自分ばっかり言いたいこと言って、あたしには何も言わせてくれないの……?」

どうして1人で行っちゃったの?
会いたくても居場所、解らないんじゃ会いにも行けない。
あたしも同じで気持ちでいること、すぐにでもカインに伝えたいのに……!


…続…
(06'11/20)
 
[戻]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -