【To You 1】

「あの…セシルの用事について、何か詳しく聞いてたりしてますか?」

地底を出てからだいたい2時間くらいたったころ。
バロンからあたしを迎えに来てくれた飛空挺の船員さんに声をかけた。

「いいえ、我々はあなたを城までお連れするようにとしか伺っておりません」
「そうですか………」

月でのあのバトルから1ヵ月ほど経って。
あたしはセシル達に呼ばれてバロン城へ向かっていた。
何か渡したいものがあるから、とそう言われて。
甲板に出ると、かつてみんなと旅をした青い海や緑の大陸が眼下に広がっていた。

「懐かしいなぁ……」

まだたいして月日が流れたわけでもないんだけど、幻界とは時間の流れが違うからかな。
何だかすごく久しぶりに感じた。
みんな、どうしてるだろう。
ローザとセシルは新婚さんだから聞かなくても解ってるけど。
エッジ、少しは王様らしくなったかな。
ギルバートのお兄ちゃん、あれから体壊してたりしてないかな。
ヤンはやっぱり修行の日々、って感じだろうな。
シドのおじちゃんは飛空挺のお世話、元気にやってるかな。
パロムやポロムは、きっと魔法のお勉強にうんざりしてたりして。

……だけど、あたしの中に誰より何より気になってる人がいる。

行き先も告げずに1人、どこかへ消えてしまった人。
少しはあたしのこと、思い出してくれてたり、してる?
元気、してる?

「カイン……。 今どこにいるんだろう……」

そんなことを考えているうちに、いつの間にかバロンのお城が少し遠くの方に見えてきた。

「もしかして、用事って……」

…………カインのこと、なの?



「ようこそ、お久しぶりですね」

旅の間にすっかり顔なじみになっていた門番の兵士さんが重そうな扉を開けてくれた。

「こんにちは〜〜」
「こんにちは。 陛下なら政務室で職務中だと思います。 あなたが来られたらすぐに来てもらうようにとのことなので直接そちらに向かっていただいて結構ですよ。 案内は必要ですか?」
「ううん、大丈夫です。 じゃあ政務室ですね」

それじゃ、と門番さんと別れて中に入った。
バトルで傷ついてたとこなんかも綺麗に修復されてるし、今までのバリバリの軍事国家!なイメージが、何だか和やかになった気がする。
けれど、別に兵士さんたちの士気が下がってるとかじゃなくって、今までがきっと王様が不在だったりモンスター、入り込んでたりでピリピリしてたんだろうな。
少し雰囲気の変わった城内を眺めながら歩いて、玉座の間の少し奥。
政務室の前に辿り着いた。
2回ほど軽くノックをすると、中からガチャッと扉が開けられた。

「いらっしゃい、リディア」
「セシル……久しぶりだね!」

久々の再会にお互いに笑顔になる。
少し後ろにはローザもいた。

「ごめんね、私たちから幻界の方に行けたらよかったんだけど……」
「ううん、2人は国のことで忙しいんだもん。 大丈夫だよ、迎えに来てもらったし」
「疲れたろ? ほら、中に入って座りなよ」

セシルの言葉遣いが余りに前と変わらないから、それがすごくおかしくて。
吹き出しそうなのを必死で堪えてたのに耳元でローザが『ちっとも王様らしくないでしょ』なんて言うから結局2人で大笑い。
セシル、すごく不思議そうな顔して。
首、傾げてた。
しばらくは普通にお喋りしてたんだけど談笑もそこそこに、今回の本題。

「それで、あたしに渡したいものってなぁに?」
「うん、これなんだけど……」

と、セシルが机の引き出しから取り出したのは筒状に丸められた、小さな白茶色の紙。
広がらないように銀の輪に通して留められていた。

「この間、ずっとゴタゴタしててできてなかった装備品の整理をしてたんだけど……。 その中にカインが使ってた槍があってね。 動かした拍子にその槍の端についてた飾りが外れて、中からこれが出てきたんだ」

差し出されたそれを受け取った。
端っこなんかは少し破れかけてたり、所々中に書かれてる文字のインクが裏に滲んでる部分があったりして。
あまり新しい感じはしなかった。

だけどそんなことより、カインの……。

「カインの……槍から?」
「うん……それで……」

少し言いよどんで、ちらりとローザと視線を交わす。

「その……中身をね、見ちゃったんだけど……。 まさか、そんなこと……書いてあるとは思わなくて……」

気まずそうな顔で視線を逸らしたままのセシル。

「とにかくこれ、僕が持っておくわけにはいかないし、かといって勝手に捨てるわけにもいかないし……カイン、ずっと自分で持っていたようだけど君に宛てた内容になってるから……君に渡すのが一番かと思って」

カインがあたしに……宛てた手紙……?
そりゃあカインのこと心配だし、見つかった、だとかそんな話だったらいいなとは思ってたけど、まさか手紙なんて……。
否応なく鼓動が速くなるのが解る。

「あたし……だけに? みんなに、じゃなくて?」
「君だけに、だよ。 カインから君に。 今、読む……?」

少し、迷った。

一瞬「嬉しい」とも思ったんだけど、喜べる内容じゃないかもしれない。
だってセシルのあの気まずそうな顔。
どうしよう、どうしよう……。
だけど、読まないままじゃそれさえ確かめられない。

「うん、読むよ…………今」


…続…
(06'11/13)
 
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