【逸らせずに】

「ねぇ、これ開かないよ〜〜」
「ん〜〜? 貸してみろ」

手渡されたのはジャムのビン。
先程までリディアが開けようと唸りながら頑張っていたのだがどうにもならないようで、口を尖らせて俺に助けを求めてきた。
……こんなものも開けられないなんて女性とはこうもか弱いものだっただろうか。
……それとも彼女に限ってか。
蓋とビンを掴んで各々を逆に捻ると、それは軽い音を立てていともたやすく開いてしまった。

「すっごい、さすがカイン!」
「たかがジャムの蓋じゃないか……」

大げさなほど感嘆の声をあげるリディアに俺は思わず苦笑を返した。
ビンと蓋をそれぞれ渡すと彼女は嬉しそうにそれを受け取る。

改めて見れば本当にか細い腕。
身体だってもう少し太った方がいいんじゃないかってくらいだ。
指も白くて細い、まさに白魚のような。
……見たことのない緑色の髪に初めはとても驚いた。
それはまるで宝石の…エメラルドの、滝。
瞳は紫、それも綺麗な光を灯していて。

話しに夢中になったり嬉いことがあったり楽しく過ごしている時間はいつもその頬をりんごのように真っ赤に染める。

ホラ今も。

いちごジャムをたっぷりつけたパンを美味そうに頬張って幸せそうに微笑んでる。
その頬はやはり、紅い。

「…美味いか」
「うん、おいし〜〜い!」

俺は思わず口元が緩んで、するとなぜか彼女が眼を丸くした。

「なんだ?」
「……ぅふふ、なんでもなぁい」

そう言ってまた、彼女はパンに噛り付く。

……微笑ましい姿。
…………愛らしい笑顔。


何故だろう。
……彼女から眼が、離せない。


おしまい
(06'02/25)
 
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