【お子様ランチ】
さっきから感じる、みょ〜〜な視線。
「ね〜〜ね〜〜カイン〜〜〜〜、それ何〜〜?」
「……カニクリームコロッケ」
「じゃあそっちは〜?」
「……こっちはコーンクリーム」
「へ〜〜、お〜い〜し〜そ〜」
「………」
自分だってミートスパ食ってるだろ……。
俺は思わず心の中で突っ込んだ。
ここはバロン城下にある俺たちバロン組が昔からよく来ていたレストラン。
久々に訪れた故郷で少し遅めのランチタイムだ。
俺の向かいに座っている少女……リディアは、それはもう眩しいほど瞳を輝かせながら俺が食べてる途中の皿を見つめている。
「だったらお前もこっちを頼めばよかったじゃないか」
「メニュー見たときはこっちの方が食べたかったの〜〜!」
……ったく……
「しょうがないな……」
俺がそう小さく溢した瞬間、物欲しげな視線が満面の笑みに変わり、彼女はまるで小さな子供のように両手をあげてはしゃいで見せた。
そんな感情のままの素直なしぐさにつられて俺まで口許が緩んでしまう。
「どっちがいい?」
「う〜ん……、カニ!」
彼女の注文通り、カニクリームコロッケを半分に割りそれを刺したフォークで軽く手招く。
「ホラ」
「わぁい、いただきます!」
その言葉とほぼ同時。
リディアは躊躇うことなく俺が使っていたフォークから直にコロッケを口にした。
「ぁ」
彼女の思わぬ行動に、俺は思わず小さく声をあげる。
そう、あれだ。
まさに『はい、あ〜ん』という……アレ。
「あ゙あっ!?」
恨めしげに俺達を見ていた王子様が素っ頓狂な声と共に椅子から立とうとするが、何やら無駄に動揺しているようでバランスを崩してテーブルに手をつき、ガタガタと音を立てて倒れこんだ。
「な、なによぅ〜〜」
「エッジってば今食事中よ? 静かにしてよ〜〜」
王子様とは正反対の、何やらニヤニヤ笑っていたローザが奴を諌める。
「だってコイツ……!」
「おい、人を指差すなバカ王子」
というか、俺だって予想外だった。
「えッ、えっ?? だってああやって出されたら普通食べるでしょ!?」
エッジの反応に慌てたようにリディアは回りに同意を求める。
そんな様子に俺をはじめ、メンバー全員が思わず苦笑した。
「イヤ……俺はてっきり皿を出してくると思ってた」
そう言った途端。
彼女は眼を大きく見開いて次の瞬間にはみるみるうちに頬を赤く染めていく。
……やはり柄にもなく思ってしまう。
素直に……彼女が可愛い、と。
「ご、ごめん……」
「いや……俺は別にいいんだけどな……」
恥ずかしそうに俯いて、ぼそぼそと喋る様が可愛くておかしくて。
手で眼を覆い、顔を背けて必死に笑いを堪えながら答えた。
「カイン、笑いすぎだよ……」
「お前だって顔が笑ってるだろ、セシル」
「……笑わないでよ……」
「フフ……ッ…、ぁ〜……いや、悪い」
やたらとツボにはまってしまって声は出ずとも肩が揺れる。
「せっかくお返しにこっちのひとくちあげようと思ってたのに〜〜」
ふてくされたような表情で、はい、とスパゲティを巻き取ったフォークの先を俺に向けた。
「あぁ……、サンキュ」
そういって皿を差し出そうとしたが皿の縁に指をかけたところで、ふと思いつく。
「あ、こうやって出されたら直に食うんだっけ?」
「えっ? あ…!」
驚く彼女の手首を掴んでそのままスパゲティを口に入れた。
「………!」
「アラアラvv」
「ちょっ……お、お、お、ま………!!」
「あ〜ぁ、やると思ったよ……」
どれが誰のコメントか……言うまでもない、か。
「まだ顔が赤いな」
「う、うるさいよ……」
「いくらなんでも照れすぎじゃないか?」
「照れてなぁいッ!」
「やれやれ……」
そう小さく笑うと、腕をバチンと叩かれた。
「カインがあんなことするからだよ!」
「お前だってしたくせに」
「あ、あれは……」
返す言葉も無く彼女は殊更深く俯く。
その頬はまるでリンゴの様に赤い。
チョットからかいすぎたかも。
俺は彼女の機嫌を伺うようにその新緑の髪を軽く撫で、微笑った。
だけどそういう不貞腐れた表情をされるとますますおもちゃにしたくなる。
この気持ち、わかってくれるだろう?
「そんなにいろいろ食べたかったなら、今度からお前、アレを注文したらいい」
「……なぁに?」
「ひとつの皿にいろんなのが乗ってるし、デザートだって付いてくる」
「な、なによぅ〜??」
「オコサマランチ」
一瞬あっけに取られたような表情。
が、
「ひっどーい! 失礼しちゃう!!」
そういいながらも。
晴れやかに笑う彼女は眩しかった。
おしまい
(05'08/07)