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■最悪の騎士5

※R18

窓の外は闇夜だ。街の灯りが遠い。
「エース……痛!……痛いっ……ん……」
ベッドの上で全裸で震え、泣きながらエースを抱きしめる。
でもいくら懇願しても、エースは出て行ってくれない。
「力をもう少し抜いて……俺もゆっくり動くから……よしよし」
犬でも褒めるように褒め、キスされ、舌で涙をすくわれる。
緩慢に自分の中でエースが動き、私は鈍痛と快感のはざまで耐える。
場所はベッドに移されたけど、初めてなため、どうしても苦痛を伴う。
「ん……あ……ぅ……」
エースが動き、ベッドがわずかにきしむ。
そのうちに休憩時間を終える気になったのか、また動きだした。
「エース……っ……ん……や……!」
かすかに艶の入った、涙まじりの声。
「リン……っ」
熱のこもった――フリをしてるのではないかと、どこか疑わせるエースの声。
熱い雄を何度も穿たれ、刺激に生み出される愛液が苦痛を緩和してくれる。
――エース……っ……。
音がする。打ち付けられるたびに、自分がどこかへ行ってしまいそうだ。

「リン、リン……」
やがてエースの声に少しずつ混じる『本物』の声。
激しくなる突き上げと私をつかむ手ににじむ、本物の汗。
痛みなのか快感なのかも分からず声を上げ、エースを呼ぶ私。
その声を聞く度に、私も、
「ん……や……ぁ……っ……!」
数えられないほど押し入られ、艶めいた声が上がる。
背筋を何かが駆け上がり、痛みを上回る快感に、全身が包まれ、熱く――。

「――――っ……!」

「リン。もしかしてイッちゃった?」
「……!」
エースの声にほんの少し我に返ったとき、
「はは。初めてでイクなんて、君は本当に……っ……!」
内側に生温かい何かが大量に放たれる。
「リン……!」
「ん……ぁ……」
余韻に与えられた快感に身体を震わせていると、
「好きだぜ」
エースが言って、私の唇にキスをする。
真っ赤な嘘をつきながら。

…………

「エース、ダメ。止めて……」
ベッドの中で全裸のまま身をよじるけど、エースの手はしつこい。
「いいだろ?新しいやり方を教えてあげるからさ」
「そんなの結構です!!」
「だって、君が俺に嫌気がさして、次の時間帯には元の世界に帰っちゃう
かもしれないだろ?なら今のうちに愛しあっておかないと」
「…………」
自分が何をしたか自覚があるようで、大いに結構。
やがて抵抗に疲れた私をエースが捕らえ、組み敷き、身体に触れてくる。
すると、さっきの快感が蘇り、疲れ切った身体がわずかにほてり出す。
「でも本当に疲れてるんです。せめて何か取ってから……」
「ああ?俺のことなら心配しないでくれ。騎士だから身体は丈夫だし、
旅だってしてるから、ずっと食べないことには慣れている!!」
「…………」
そんな体力自慢に組み敷かれる私の心配はなしか。
しかも分かっていて強行されている気がする。
気づかない無神経よりタチが悪い。
――ここまで、大事にしてもらえない予感しかしない人は、珍しいですね。
何だって、初対面であんなに好印象を持ってしまったのか。
それがそもそも目をつけられるきっかけになったのだとしたら、自分の
見る目の無さを殴ってやりたい。
「俺でいっぱいにしてあげるから、安心してくれよ、リン」
優しくキスをしながら言う。
「それよりベッドから十数歩先にあるキッチンの、非常用チョコレートが
欲しいのですが……」
「うん。じゃあ、君が俺を満足させてくれたら、あげるから」
「何で交換条件になってるんですか。もういいですよ。自分で取ります」
「おっと!逃げようとしても無駄だぜ!」
ベッドから出ようとしたところを押さえつけられ、引き戻された。
「エース!怒りますよ!」
「うん。抵抗してくれていいぜ。後でもっと辛くなるけどね」
もはや犯罪性を隠そうともしない。
「それじゃあ、まず、×××からしてみようか」
「え。待って下さい。なんでいきなり×××――ん……!」
エースに無理やり四つん這いにさせられ、×××の体勢を取らされる。
「それじゃあ、上手く×××するコツだけど――」
エースの手が身体を這う。愛撫では無く逃がさないように。
教えられたくもない知識を教えられ、私は涙をにじませ、従うしかなかった。

…………

…………

「塔の職員総出で君を捜し回って、俺が、焚き火の跡を見つけた。
そして近くの部屋の中で、君の……君たちの気配に気づいたんだ」
「そう、ですか」
「踏み込むべきかと思ったが、少しだけ扉を開いたとき聞こえてきた君の声が、その……」
グレイの言葉に、ただ羞恥するしかない。
「ナイトメア様には報告するしかなかったが、他の者には言っていない。
誓って本当だ。君はまた迷子になって塔の外に出、他の領土で発見した。
そういうことにしてある」
言い切ると、私の返答を待つように沈黙があった。でも私は返事をしない。
塔の客室で、布団にくるまり、うぐくまっている。
やがて羽毛布団の上から、私を撫でる気配があった。緊張をはらむ声で、
「辛いだろうが確認させてくれ。合意だったのか?」
私は少し沈黙し、
「……はい。でも恋人ではありません」
「そうか」
意味をどこまで汲み取ってくれたのか。
「とにかくリン、君の着替えはここに置いておく。
軽食とココアはテーブルの上だ。騎士は会合まで出入り禁止にするよう
塔の者に厳命しておくから」
「どうも」
「まずい奴に目をつけられたな。注意しきれていなくて、すまない」
グレイのせいじゃないのに、謝られた。
そしてグレイはわざとらしく明るい声になり、
「そ、そうだ。ナイトメア様が、君を劇場に連れて行きたいと仰っていた。
ドレスがなくてはな。三人で出かけ、帰りに評判の店でシェフの――」
「ええ。お気遣いありがとうございます。では着替えますから」
「……分かった。外で待っているよ」
グレイが立ち去る気配。
でも扉を閉める音がしても、私はすぐには動く気になれなかった。

――エース……。

私が行為の疲れで寝ている間に、何の痕跡も残さずに出て行った最低野郎。
初めての後の、甘い会話なんてなかった。
次に会おうとしても、私は元の世界に帰って、いないかもしれないのに。
休息を訴える私を無視し、何度も欲望を身体の内に吐き出し、私を使うだけ
『使って』去った。
丸まったまま、こぶしを握る。
けど、私は私自身をどう考えればいいか分からない。
襲われた被害者なのか、騎士に手をつけられた哀れな余所者なのか。
いずれにせよ、グレイにはバレた。
――でも……。

また会いたいという思いがどこかにある。
私のことなんかカケラも考えていない、最低野郎と分かったというのに。

魅力的な人だ。告白から、手をつなぐところから、キスから始めようと思えば
出来たはずなのに。もしそうしてくれたら、私はきっと元の世界に帰る気を
なくすほど、幸せだっただろうに。

いきなり抱かれた。私の思いを無視して。わずかな好意につけこんで。
涙がこぼれ、枕を濡らす。


最悪の騎士を好きになった。

5/5

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