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■最悪の騎士3

※R12

「へええ?俺に冷たいのに、俺に恋人がいないのがそんなに嬉しいんだ」
椅子から立ち上がる。腰紐の結びが緩かったのか、バスローブの胸元が
緩く開き、胸板がやけに目に入る。
「い、いや、あ、あの、その……」
言葉にならない言葉をモゴモゴと口の中で転がす。
最近、グレイや塔の職員さんといった比較対象が増えたせいか、エースの
ことは前ほどキラキラ輝いては見えない。それでもまだ――。
「嬉しいぜ、リン。俺も君のことがずっと好きだったんだ」
「…………」
嘘だ。嘘をつかれている。
逆に、そのことが彼への好感度をガクッと下げる。
嘘をついても構わない、からかって楽しむ相手。友人ですら無い。
私の中に残っていたエースへの好感情がスーッと冷めていく。
「ん?俺、何か気に触ることを言った?」
私が冷めていくことに気づいてるだろうに、エースの声には何ら罪悪感も
慌てた様子もない。逆にますます楽しそう。
「……別に」
私は立ち上がり、扉に向かう。
「私、人を呼んできますね。このままじゃ、あなたが外に出られませんし」
そう言ってドアノブに手をかけようとすると、
「嘘だ」
後ろから抱きしめられた。

「……エース……!!」
うなじの髪をかき上げ、優しくキスをされる。
まるで恋人にするような抱擁に、警戒と嫌悪を半々に感じる。
「悲しいぜ、リン。俺に嘘をつくなよ。君は俺並みの迷子癖になって
いるんだぜ?人を呼ぶより、来てもらうのが正解だ。
つまり君は、俺が怖くなって逃げようとしている。だろ?」
「…………っ!」
今度はキスではない。舌でザラリと舐められ、鳥肌が立った。
「あなたが先に嘘をついたんでしょう?好きでもないのに好きだなんて!」
身をよじる。必死によじる。でも全く身体が動かなかった。
エースはそこまで力を入れている風でもないのに。
「トカゲさんと鍛錬したいっていうのが嘘。本当は君に会いに来たんだ」
「それも嘘でしょう」
「あはは、そのとおり。でも、君にも会いたかったのも本当だぜ?」
その嘘は否定しても、さっきの嘘については否定しない。それに傷つく。
「でもさ。好きじゃなくても、つながってみれば、何か変わるかもしれないぜ?」
エースの手が身体の線を確かめるように私の腰をなぞる。
瞬間。私は大声を出そうとした。
「誰か――ん……ッ!!」
手で口をふさがれた。
「ほら、暴れないでくれよ。危ないぜ?」
「……何で、こんなことを……!」
部屋の内に引きずられながら、どうにか言った。
「ん?だって君は、ほんのちょっと前まで俺に会って、はしゃぐくらい、
俺を好きでいてくれただろ?俺だってトカゲさんに会いにいくついでに、
君に会いたいと思う程度には君が好きだ。これって両思いじゃないか?」
ンな淡泊な両思いがあるか!!ツッコミを入れようにも手を口でふさがれ、
ついでに言うと、もうそんな状況でもない。
「リン……」
空いているエースの手が、私の胸に移る。
そして片手で、胸元のボタンを一つ外した。
……かなり、事態は深刻だ。


「ん……んん……ん……」
客室の扉の前で、口をふさがれながら、羞恥に耐える。
「はは。真っ赤になっちゃって可愛いな。ほら、今なら声を出してもいいぜ。
まあ、誰かに来ても、君の可愛い姿を見られちゃうけどな」
私のシャツのボタンを全て外したエースは、私の胸をあらわにさせ、
背後から指でいじってくる。もう手で口はふさがず、形を確かめたり、
指先で先端を弄ったり。
「…………だめ……」
誰かが扉を開けたら、私の胸が丸見えという仕組みだ。
「だろうね。君も嫌がるどころか……」
「……ひ……っ」
反応した先端を指でこすられ、耳朶に軽く歯を立てられ、声が出る。
エースはそのまま私の上着をずらさせ肩を露出させる。
そして首筋や肩に口づけをした。胸を弄んだまま。
羞恥といいようにされる悔しさ、そして、認めたくない熱に、涙が出る。
「どう、して……」
彼が犯罪者か何かなら、想像したくないけど最初に出会ったときに
『されて』いただろう。普通の人なら段階を踏んで親しくなろうとしたはず。
若干の警戒心すらあったけど、私はエースが嫌いではない。
恋人がいないと分かって、ホッとするくらいの好意だって残っていた。
それなのに、そうと知っていて、なぜ――。
「君が好きだから。あと俺のせいで木から落ちて迷子になっただろう?
騎士として、責任を取らなきゃな」
深いキスをしながら嘘を言われる。
だから何で、段階すっ飛ばして、こんなことをする必要があるのか。
「……っ……やめ……!……」
エースの手が私の下半身にのばされ、慌てて押さえる。
「ん?嫌?」
「あ、当たり前でしょう!!」
怒って叫ぶ。そしてハッとする。エースは背後から私の唇に人差し指をあて、
「ほら、誰かに聞こえたらどうするんだよ。入ってこられるぜ?」
「ん……!」
そのまま指が口内に入る。
「……ん……ぅ……っ!」
無遠慮に荒らすそれは愛撫では無く、声を出した私に制裁を加えているようでもあった。
「げほ……っ」
やっと指が出され、苦しさに咳き込む。でもエースは楽しそうに指をなめ、
「心配しないでくれよ。君がその気じゃなくても楽しむ『方法』はいくらでも
あるし、俺ももちろん優しくする。まあ、初めてなら多少は痛くなるけど
……ええと、初めて、だよな?」
何つう失礼な質問を……というか『方法』って何だ。

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