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■私と陛下・上

アリス姉さんは美しくて素敵な人です。
そんな人が、大輪の薔薇のような女王陛下と並ばれると、さらにお素敵です。
「……ナノ。何で、あなた、そんな部屋のすみっこにこぢんまりと座ってるの」
女王陛下のお部屋で紅茶を飲むアリス姉さんは、困ったお顔です。
私はというと、陛下のぬいぐるみの中に埋まり、お二人を鑑賞しておりました。
「そうじゃ、ナノ。おまえもこっちにおいで。
そこまでじっとしておると、ぬいぐるみと間違えてしまいそうじゃ」
女王陛下も手招きされましたので、私はぬいぐるみさんにお別れを告げ、とてとてと
お二人の元に参りました。二人の間にちょこんと座りますと、
「ナノ様、どうぞ。ローズヒップティーですよ」
「どのケーキをお召し上がりになりますか?何でもお持ちいたしますよ」
メイドさんたちが嬉しそうに、私に世話を焼いて下さいます。
な、何か居心地悪いですね。やっぱり見ているだけの方が良かったです。

「ビバルディ、あんなに大量の高級品を送ってこなくてもいいわ。
私とナノの二人暮らしなんだから」
アリス姉さんは私の頭を撫でつつ、女王陛下とお話中です。
陛下は優雅にケーキを召し上がり、
「わらわではない。ほとんどはホワイトの奴じゃ。
おまえたちも、贈り物が嫌なら城に移れば良い」
女王さまは親切強盗のような御方です。
でもメイドさんたちも話を合わせます。
「そうですよ、アリス様、ナノ様!」
「どうぞ、お城にお住みになって下さい!」
「薔薇園の見えるお部屋を用意いたしますよ!」
「カーテンや壁紙のお色にご注文があれば、私どもにお任せを!」
私が返答出来ず、もじもじして、困っていますと、
「ありがとう。でも私たちは、今の家の方が合ってるの。ね、ナノ?」
アリス姉さんに言われ、私もあわててうなずきます。アリス姉さんは、
「それより、ビバルディ。ご親切のお返しをさせていただきたいの。
この前みたいに、裁判のお手伝いをしていいかしら?」
かなり強引な話のそらしようです。しかし女王さまは目を輝かせ、
「おお!もちろんじゃ。裁判など面倒で仕方ない。全員、死刑にしようと思って
おったのじゃ。アリス、私の代わりに斬首を言い渡してきておくれ」
すると、アリス姉さんは少々冷や汗を浮かべつつも、
「わ、分かったわ。私が全員に判決を出すから、ビバルディは休んでいて」
私の頭の中には、感嘆と感動しかありません。
優しくて賢い人だと思ってましたが、まさか異世界の司法知識があるなんて!
「ナノ……あの、そこまでキラキラした目で私を見ないで……。
本当に、そこまで大げさなものじゃないから……」
アリス姉さん、なぜかたいそうお困りのご様子です。
フラフラと陛下の部屋の扉に向かわれました。
アリス姉さんが颯爽と裁判長を務めるなら、是非見てみたいものです。
私もついていこうと立ち上がりますと、

「これ、ナノ。どこへ行く」

ガシッと、私の手首がつかまれました。

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