次の話→

■アリス姉さんと不審者

ニコニコと歩いて行く。長い栗色の髪を追いかけて。
空は雲が流れ、森の木々は新緑の葉を揺らしています。
「天気がよいですね、アリス姉さん」
「そうね、ナノ」
アリス姉さんもニコニコしています。
私たちは手をつないで森を歩きます。
「あ、リンゴですよ、アリス姉さん!」
私は顔を輝かせて指差します。
道の端、少し高い木の枝に、真っ赤なリンゴが実っていました。
虫さんが食べた様子のない、ピカピカに赤く熟したリンゴです。
「美味しそうですね……」
つばをゴクッと飲み込みました。
ですが、あんな高いところにあっては取れないでしょう。
するとアリス姉さんは、
「大丈夫よ、ナノ!」
と私にウインクします。そして……
「ね、姉さん!何をするんですか!」
木の幹にしがみつこうとしたアリス姉さんを、私は慌てて止めました。
「大丈夫。こう見えても下町の学校に通ってたのよ?木登りくらい任せて!」
「ダメ!ダメですよ!落ちたら危ないですし、お洋服だって……!」
アリス姉さんのきれいなエプロンドレスが汚れるなど、あってはならないことです。
「心配しすぎよ、ナノ。ちょっと待っててね」
「アリス姉さーん!!」

そのとき。
ヒュッと風を切る音がしました。
そして、プツッと何かが切れる音がして……。

『え……?』

不思議の国にも万有引力の法則があると、証明するがごとく。
リンゴが枝から切り離され、垂直に、落ちて参りました。
「……わっ!」
慌てて出した、私の手の平の中に。誰かが石ころで枝を切った……?
「え?ナノ、あなた、何かやったの?」
木から下りて、アリス姉さんもリンゴを凝視します。
「え?アリス姉さんがやったんじゃないんですか?」
「出来ないわよ、そんなこと!」
「私だって出来ませんよ!」
私たちが喜びより戸惑いでオロオロあわあわしていますと、後ろから、

「二人とも!リンゴは俺からのプレゼントだ!」

そしてアリス姉さんの顔が強ばります。声はさらに続き、
「よし!久しぶりに会えた記念に、三人で旅でも――」
「ナノ、早く!!」
次の瞬間、最後まで聞かずアリス姉さんが私の腕を引っ張ります。
「わ……!あ、アリス姉さん!!」
「おーい、二人ともー!照れなくったっていいだろ?あはは!」
後ろからは謎の笑い声。振り向こうとしますと、アリス姉さんは鋭く、
「ナノ、振り向いちゃダメよ!!」
「ね、姉さん?リンゴはもしやあの方が……でしたらお礼を……!」
「だまされないで!あれは山野をさまよう妖怪『オレッテ・フコウダカラサー』よ!
目があったら崖の下に引きずりこまれるわ!!」
そ、それは尋常ではないような……でもあの声って確か……。
「ですが姉さん、私、あの声の方に心あたりが!」
「逃げるのよ、ナノ。心配しないで。あなたは私が守るから!!」
「は、はあ……どうもありがとうです……」
美しく優しいアリス姉さんのお言葉は絶対です。
私は戸惑いつつ、手の中のリンゴをかじるのでした。

2/4

次の話→

トップへ 目次に戻る


- ナノ -