次の話→ 時計塔近くの通り。 そこに、小さな家が一軒建っていました。 …………… 窓の外にはスカイブルー。 窓辺には透明な花が揺れています。 私が水差しを傾けますと、緑の葉っぱがキラキラ光って喜んでくれました。 「〜〜〜♪」 私は適当に歌を歌いつつ、水差しを片づけます。 そして戸棚を開け、お姉さんのためにケーキと紅茶を淹れる準備を始めました。 ………………… ハーブティーを淹れ、お店でもらったティラミスを切り分けた頃、玄関の呼び鈴が鳴る 音がしました。それを聞くと私は飛び上がり、キンガムチェック柄のエプロンを慌てて 外しました。飛びつくように木の扉に走り、扉を開けます。 「おかえりなさい、アリスお姉さん」 「ただいま、ナノ」 私を見てニッコリ笑った長い髪のエプロンドレスのお姉さん。 手にはいい匂いのする紙袋を抱えています。 「ナノ。ゴーランドがジンジャークッキーをくれたわよ」 私はほこほこ暖かい包みを受け取るとお皿に並べに行きます。 「姉さん、今回は遊園地にお手伝いに行かれたのですか」 ここは不思議なことだらけの不思議の国。 『余所者』として暮らす私ナノとアリス姉さん。二人の小さい家には、白ウサギさんはじめ、 いろんな領土の人が食べ物や生活必需品を下さいます。 でもアリス姉さんは『それじゃ、申し訳ないわ』と色んな領土にお手伝いに行きます。 そう、私たち二人は、どこの領土にも属さず時計塔近くに二人だけで暮らしています。 「アリス姉さん、座って下さい。ハーブティーが冷めてしまいます」 私が椅子を引くと、アリス姉さんは複雑なお顔をされます。 「ナノ、何回も言ってるけど、敬語は止めて。 それと、姉さん、じゃなくて『アリス』でいいわ」 私は小首を傾げ、言われた意味を吟味します。 「……アリス姉貴?」 「ダメ!」 「アリス兄さん!」 「そういう意味じゃないの!」 苦笑されました。 アリス姉さんは木の椅子を引き、早速ティラミスをフォークで切ります。 一口食べて顔をほころばせ、 「あら、いい店を見つけてきたのね」 「お皿洗いを×時間帯やって、いただきました」 配給は多けれど、自由に使えるお金はそれほど多くありませぬゆえ。 得意になって言うと、アリス姉さん、しばしの沈黙。 「……あのね、ナノ。あなたは働かなくていいわ。お手伝いは私が行くから」 それは心外なお言葉です。 「私もお姉さんのお役に立ちたいです」 「ナノ。この世界は物騒なのよ。もしあなたに危険なことがあったら……」 アリス姉さんは悲しそう。姉さんは、遅れて不思議の国にやってきた私を、実の妹の ように可愛がって下さいます。 「他の役持ちに会うのは、そんなに怖い?」 「…………いえ」 怖いわけではないのですが、アリス姉さんはこの世界で一番モテる方。 私ごときが邪魔をしては悪い気がして。 「なら、一緒にお手伝いに行きましょう?今度は時計塔にいくの。 この間、珈琲豆を届けてくれたから」 アリス姉さんは優しく笑います。 私は顔を少し赤くしてうなずきました。 時計塔近くの通り。 そこに、アリス姉さんと私、余所者二人が暮らす小さな家がありました。 1/4 次の話→ トップへ 目次に戻る |