次の話→ ・私(ナノ)……二番目の余所者。アリスと同居し、アリスを姉と慕う。 ・アリス……最初の余所者。時計塔近くの小さな家で主人公と同居。 色んな領土にお手伝いに行っている。 ■エースさんと私・上 天気の良い昼間の時間帯です。窓からは爽やかな青空が見えます。 そよかぜが吹き、レースのカーテンと、窓辺の三色スミレが優しく揺れています。 私は家のお掃除中です。 そして、テーブルの上を拭いていて、ふと『それ』を目にしました。 「あ。アリス姉さん。お忘れ物ですよ」 私は少し困ってしまいました。 アリス姉さんは、いつも通り、よその領土にお手伝い中です。 テーブルの上には、アリス姉さんが、役持ちさんたちからの貢ぎ物……コホン、 生活援助物資へのお礼として、大切に編んだ膝掛け。 「どうしましょうか……」 窓の外を見て迷います。私は日本人らしく引っ込み思案なため、外は苦手です。 「うーむ……」 暖かい膝掛けを手に取ってみる。編み目の少し粗い場所は、私が手伝った箇所です。 それだけに思い入れもひとしお。相手の役持ちの方の反応も見てみたい。 「……よし!」 私は心を決めました。 膝掛けを届けに、外に出ることにしました。 ………… そして時計塔前の通りを歩いていると、ポンと肩を叩かれました。 「あ……」 振り向くと、青空のような爽やかな笑顔。 「やあ、ナノ!」 ハートの騎士、エースさんでした。 「ど、どうも……」 おどおどと挙動不審に返事をしますと、 「あはは!相変わらず人見知りだなあ。もっと顔を上げなきゃ!」 この方は、誰にでも無駄にフレンドリーです。私にもフレンドリーすぎて困ります。 ご指摘の通り、人見知りな私は、会話のつなぎにも困ってしまいました。 そして、エースさんはそんな些細なことに頓着いたしません。 「よし!ここで出会ったのも運命だ!一緒に旅に出ようぜ!」 「え……!い、いえそれはちょっと……!」 見上げるような身長のエースさんに見下ろされ、私はちょっとすくみました。 「大丈夫、大丈夫!俺はアリスとだって旅をしてるんだぜ?」 いえいえいえ、私とアリス姉さんは違いますよ。私、間がもたないですから! ていうかアウトドアはごめんです。骨の髄までインドアです、私ナノ!! 何よりアリス姉さんが心配されますからっ!! 「平気、平気!俺が君を守るからさ!」 むしろ守られるような事態になることを、最初期段階で回避したいというか! 「いえ……その結構です。ええと、用事がありますし……」 もごもごと不明瞭な発言をしますと、 「思い立ったが吉日だぜ!よし!それじゃあ出発だ!」 日付の概念がない世界なのに『吉日』とか言った! しかしエースさんは私の手首をつかむなり、歩き出してしまう。 いきなり触れられたことと、引っ張られたことで、プチパニック。 ――だ、誰か……!! 「エース!!」 そのとき、天使の声が聞こえました。 声が聞こえた瞬間。 エースさん、調教師に命令された犬のごとく(失礼)、ピタッと止まります。 そして私など忘れたかのように、全開の笑顔で振り向き、 「アリス!久しぶりだなあ!!」 そう、道の向こうにはお手伝いを終えたらしいアリス姉さんが立っていました。 しかし、救いの女神は、明らかに怒っています。 「エース!何、ナノを勝手に連れていこうとしてるのよ!」 ツカツカと私のもとに来るなり、割って入って、エースの手を離させます。 そして私を背中にかばう。お、男らしいですね。アリス姉さん……。 しかしエースさんはめげません。 「よし、アリス!出会ったのも何かの縁だ!俺と二人で旅に――」 あ。ターゲットが私からアリス姉さんに移ったし。 「出ないわよ!一人で遭難して崖から落ちてなさいよ!」 アリス姉さん、時として少々毒舌になる御方です。 「えー、いいじゃないか。じゃあナノも一緒に行こう! 両手に花って感じでさ。テントの中で三人仲良くしようぜ!」 ……なんでしょう。セクハラと断定出来ないんですが、言い方が何だかなあ。 「……ちょっと。ナノに手を出したら、本気であなたを許さないわよ!!」 「え?じゃあ、君には手を出していいの?」 「いいわけあるかっ!!」 アリス姉さん、ツッコミの際には口調が少し崩れます。 「行きましょう、ナノ!」 私を振り向き、私の手をとってくれました。そして先を歩き、 「じゃあね、エース。ユリウスのとこにちゃんと帰るのよ」 それきりエースさんを無視して、歩いていく。 「じゃあなー。二人とも!次は一緒に旅をしようぜ!」 でもエースさんは気にした様子もなく、私たちに手を振って下さいました。 そしてアリス姉さん、エースさんが見えなくなったころで優しく私を見ました。 「ナノは散歩?用もないのに外出なんて珍しいわね」 「え?用事?ありますよ?」 もちろん、膝掛けを届けに……と、お見せしようとして。 手に大切にもっていたはずの膝掛けが、どこにもありませんでした。 1/3 次の話→ トップへ 目次に戻る |