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■塔の生活・上

さて、お立ち会い。
帽子屋屋敷の門番『ブラッディ・ツインズ』と恋人になった、余所者カイ。
しかし、元の世界ではれっきとした犯罪である『子供を恋人にする』という事実は
頭から消えず。(私自身も大人じゃねえだろ、というツッコミはさておき)
で、あるときそんな本音をポロッともらしたところ、双子の中に、私への不安が
芽生えたらしいのです。最初は単純に『子供ダメ→大人になればいーや☆』と思って
いたらしいのですが、いきなり大人になった二人に、ビビった私は逃げる!拒む!

挙げ句に、私に格好いいとこを見せるはずが、私の目の前で騎士に惨敗……。
心身ともに傷を負った子供たちは、騎士のウソを信じ、私の本心を疑ってしまう。
……そして私を×そうとする事態に至りました。
ブラッドさんは双子を冷静にさせるため、私に一時、屋敷を出るように勧告。
かくして私は、『クローバーの塔』という場所でお世話になることになったのです。

以上、これまでのあらすじでした。

…………

空は青々、風はそよそよ、日差しはポカポカ。
絶好の昼寝日和ですが、さすがにそんな気分ではありません。
私は街道を、グレイさんという人の背中を見て歩いて行く。
心の中は後悔と自己嫌悪ばかり。
私がお姉さんなんだから、ちゃんと声をかけていればーとか、一言でもいいから、
『愛してる』と言っていればー、とか。うじうじうじ。
――はあ……。
心の中のため息ですが、実際に出てしまっていたようで。
前を行くグレイさんの肩が、ピクッと動いた気がしました。
でも、特に声はかからず、私たちは無言のまま街道を歩きます。
このままずっと塔までそうなのかな、と思い始めたとき、
「……カイ、だったな」
グレイさんが、私を振り向きました。ちょっと作ったような笑顔が見えます。
私もうなずきました。
「多少の事情は三月ウサギから聞いている。その、余所者がもめごとに巻き込まれ、
大変だったな。塔でゆっくり静養するといい」
私はうなずき、頭を下げます。
「……あ、ああ」
返答を受ける顔だったグレイさん。私の態度に、私が無口キャラだと思い出したのか、
大変あいまいにうなずかれました。
……ヤベえ。この人、人見知りキャラっぽいです。
「何か聞きたいことや、伝えたいことがあれば、筆談でいいから俺に教えてほしい」
私もうなずき、グレイさんもぎこちなく作り笑いをします。そしてこちらに言葉の
ボールを投げっぱなしのまま、グレイさんは前を向き、歩みを再開。
ナイフはアレですが、堅実そうな役持ちさんです。
クローバーの塔は、引っ越しによって現れた初見の建物。
といっても、行政的なお仕事をいろいろされてる、退屈な場所だそうです。
――これは、なかなか静かな短期滞在になりそうですね。
私はホッとしたような残念なような気持ちで、グレイさんの後を追いました。

…………

さて、時間は飛びまして、クローバーの塔。その中のとびきり豪勢な一室にて。
――…………。
私は立ち尽くします。
その見覚えある人物は、本来、現実の世界にはいないはずの存在でした。
しかし今、ひじ掛け椅子の上で、意味もなく偉そうに胸を張っております。
「やあ、カイ!久しぶりだなあ!!」
――最近会わないと思ったら、こんな場所でふんぞり返ってましたか、ナイトメア。
「はっはっは!現実世界で会うと、もっと可愛いなあ、カイ!」
――ごまかさないで下さいよ。何でここにいるんです。
「私が領主だからに決まっているだろう!とにかく、こうして現実の世界で再開が
出来て何よりだ!この私の塔で、ゆっくりしていくといい!!」
フリルと金刺繍付きのスーツという評価しがたいの格好で、破顔されてる夢魔。
しかし顔色は悪い。顔面蒼白。
――あなたは、お元気の反対そうですね。
「何を言う!私はこうして健康だ!点滴と薬などなくても、人は生きていける!」
闘病されてる方への暴言ですな。しかしナイトメアさん、何というか、現実世界に
出て来たら、気のせいかダメさが増したような。
「く……!君も中途半端に毒舌だな、カイ!だが私はだなあ……!」
「あの……」
そこでグレイさんが声をかけました。
おっと忘れてました。グレイさん、先ほどからナイトメアさんの後ろに控えておられ
ます。頂いたココアは大変おいしゅうございました。
ナイトメアはグレイさんを振り向き、
「何だ、グレイ。私はカイと楽しく話をしているんだぞ!?」
「そ、そうなんですか。会話が成立しているのなら……」
戸惑ったような表情のグレイ。
そりゃ、道中の会話があんなに、ぎこちないものでしたしね。
しかもナイトメアに再会してから、私はやはり無言です。傍からは、無言で無表情の
私に、夢魔がひたすら一方的にしゃべりかけてる、痛い構図なわけです。
「カイ、『痛い』って、君なあ……」
――とりあえず、よろしくお願いします。
私はナイトメアとグレイさんに頭を下げました。
もちろん、今までのように、好意に甘えてのんびり過ごすつもりはありません!
少しでも早く二人と仲直りするため、毎時間帯が発声練習です!
「その意気だ、頑張れ、カイ!」
「……頑張ってくれ」
激励のナイトメアと、会話についていけないながら、真面目な顔になるグレイさん。
何だかちょっと安心してきました。
――それはそうと、落ちついたら眠くなってきたんですが……客室はどこに?
「……前途多難だな、これは」

ナイトメアが深々とため息をついたのでした。

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