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■騎士と塔と小瓶3

双子は、私のところに来て、私の腕を引っ張ります。
――わっ!
かけてもらった上着が下に落ち、半脱げの身体があらわになります。
それを見下ろすダムの舌打ちする音。
私は羞恥に顔を赤くし、ようやく動くようになった身体で、急いで服を直しました。
次にディーは冷たい顔で使用人をふりむきます。
「おまえたちはもういいよ。帰ってろ」
マフィア幹部の、無感情な声で命令する。
どうやら三人だけになりたいようです。
「あ、あの、門番さん。お嬢さまは傷心なので、そういうことは〜」
……いったいどんな予測をしたのでしょうか。
おずおずと、使用人さんが止めてきます。でも双子は苛々したように、
「そんなことするわけないだろ?いいから帰れよ!」
「切り刻まれたいの?早く消えろ!」
凶暴に言って、斧をチラつかせる姿はとても脅しには見えません。
使用人さんたちは、しばし顔を見合わせ、
「そ、それじゃ、俺たちはこれで〜」
「お嬢さま、お先に失礼しますね〜」
すまなそうな視線を私によこし、そそくさと消えていく。
そして、夕暮れの森の中には、私と双子だけが残りました。

そして地面にへたり込んだ私は、改めて二人を見上げます。
――ディー、ダム……。
「カイお姉さん」
「ねえ、お姉さん?」
双子に静かに見下ろされ、身がすくむ思いでした。
――え……やっぱり、ここから××展開なんですか?
も、もちろんエースと違って双子は恋人です。
いくらデタラメな論理で大人になろうと、求められれば身体は……その、まあ場所は
非常識ですが、別にいいかなーとか思ってますが。
しかし、エースに××未遂をされ、少なからぬ男性恐怖が残っています。
二人を見上げる目に、怯えは確実にあったでしょう。
それでも、次の双子の台詞は私の予想の範囲外でした。

「ねえ、お姉さん。騎士に許したの?好きだったの?」
「悲鳴も上げないし、抵抗しなかったんだもんね」

――は……?

何を言ってるんでしょう、この子たち。でも真顔です。
私はポカンとして口を開けました。
抵抗しなかったから、合意だとでも?前世紀レベルの、女性への無知っぷりです。
でも双子は大まじめです。どこか切羽詰まった顔で、
「お姉さんは僕たちが最初に迫ったとき『嫌だ』って言って逃げたでしょう?」
「なんで、あのときみたいに騎士を拒まなかったの?」
……い、いえ、だってあのときは、あなたたちは子供だったでしょう。
その、エースは大人だし、大きいし……髪をつかんで脅されたし……。
でも言葉には出来ません。口を金魚みたいにパクパク開けるだけ。
そうすると、双子の表情に、だんだん悲壮感が漂っていきました。
「お姉さん、言ったよね。子供には興味がないって」
「だからお姉さんのために大人になったのに、騎士の方が良かったの!?」
――違う!そんなわけないでしょう!
必死に首を振りました。でもいつもと違い、信じてもらえません。
疑わしげなまなざしが返ってきます。
「本当に嫌なら抵抗するよね」
「悲鳴を上げたりするよね」
――あ、あなたたち、いつの時代の人たちですか!
力を前にした女性は、恐怖に抵抗力を失うことがある。それを何で分からな……
そこでハッとする。

――そうか、分からないんだ。『子供』だから。

子供だからこそ、騎士の言われた言葉を鵜呑みにしてしまう。
傷を負って判断力も鈍り、私からの説明もないから、事情を察することが難しい。
背筋に、何とも言えない嫌なものが、じわじわこみあげてくる。
そして双子は悲しそうに言った。
「大人になったのに、お姉さんはずっと口をきいてくれないよね」
「ねえ、ずっと騎士が好きだったの?大人にならない方が良かったの?」
傷ついた顔で斧をかまえる。私は呆然としていました。
――私が、ちゃんと話さなかったから……大人じゃなかったから……。


私は以前、双子にハッキリと『子供に興味はない』と否定したことがある。
そのとき彼らがどれだけ傷ついたか、何で考えなかったんだろう。
この国になってから、双子は私に否定されてばっかりだった。
それでも応えようとして頑張っていた。でも私の前で騎士に打ちのめされ、森では
その騎士に許そうとしている(彼らにはそう見える)私を見てしまう。
『お姉さんは、僕らが好きじゃなかったの?』
という疑念が二人の中で、少しずつ育っていたとしたら?
そして自分から動かない私が、その疑念を育ててしまっていたのだとしたら……。
――私……私、何てことを……!
怠惰が産んだ致命的な失敗に気づく。
ディーとダムを大切に思うなら抵抗すべきだった。
いえ、例え恐怖でそれがかなわなかったとしても、疑念を打ち払うことは出来た。
二人を愛している、ずっと前から好きだったと、言葉でも行動でも文章でもいい、
普段から伝える努力をすべきだった。
私に優しい世界に、甘えることをせずに。

そして今、心も身体も傷ついた二人は、私の目の前で斧を振り上げる。
「迷子騎士には渡さないよ。絶対に……」
「もうこんな苦しいのは嫌だ……ごめんなさい、カイお姉さん」
私も自己嫌悪にまみれながら、息を吐く。
今さら全てが手遅れです。
二人に断罪されるなら、それもいいかと、心のどこかで思う。
「大丈夫、そんなに痛くないよ」
「無料で楽にしてあげるよ」
以前に聞いたようなことを、あのときとは正反対に悲しそうな顔で言った。
そして、二人は私に斧を振り下ろそうとした。
私も目を閉じて、抵抗しない。そして、この期に及んで無言でした。
ですが、そのとき茂みをかき分ける音がして。

「……っ!!な、何やってるんだ、ガキども!!」

そして、追跡から戻って来たエリオットさんの怒声が響きました。

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