続き→ トップへ 目次に戻る

■騎士と塔と小瓶1

空はあかね色に染まっていました。たなびく雲は幻想的で、鳥さんたちは、きれいな
『く』の字を描いて巣に帰っていきます。
そして、そんな美しい夕焼けの世界で……えーと、薄幸の余所者さんは大変なことに
なっております。
ハートの騎士エース。
久しぶりに会ったと思ったら、いきなり双子を叩きのめし、私を引っ張っていった。
――離して……離して下さい……っ!!
例によって、どこまでも恐怖で言葉が出ない私、カイさん。
エースは一度も私に声をかけたり、口説いたりせず、夕日の中、道なき道を歩いて
いく。あまりにも森に分け入りすぎて、不思議の国のどのあたりかも分からない。
だけど、こうする理由がさっぱり分かりません。
……リア充への嫉妬とかだったら泣く。

そして何時間帯歩かされたか。
騎士様に、目的地があったのかどうかは分からない。
でもどのみち、エースは迷子癖。少女の脚力お構いなしでズカズカ歩いていく。
もしかしたら帽子屋屋敷の方から、誰か捜しに出て来てくれているかもしれない。
でも追跡は不可能でしょう。騎士が速すぎ、あと迷いすぎだし。
そして、ふいに騎士は、適当な場所……人の気配が皆無な、森の奥にたまたま出来た
空き地の草むら。そこに私を突き飛ばす。
――……っ!!
引っ張り回された疲労と、突然の行動に、受け身を取る暇もなかった。
みっともなく仰向けに倒れ、うっそうとした森の草つゆを頬に感じる。
でも慌てて起き上がろうとすると、
「何か腹立つよなあ……」
手足に重み。エースがのしかかり、私の四肢を押さえつけていた。
――何?何?いったい何なんですか!?……ん……っ!
私を抱きしめたまま、エースがキスをする。
前にもされたことはある。でも、そのときとは、感じが全然違う。
今の私には双子の恋人がいる。
――ダメ……やめて……っ!!
必死に身をよじる私を無視して唇を押しつけ、無理やり舌をねじ込んできた。
――この……っ!
意思を無視され、カッとなる。舌を噛んでやったら、どんなにスッとするだろう。
――……ん……痛……っ!
考えを読まれたように、髪をつかまれた。戯れとかそういうレベルじゃない。
――抜ける!本当に抜けますからっ!!
口がきけたら怒鳴りたいくらいの強さだった。
あまりの痛みについに根負けした。にじんだ涙をぬぐうことも出来ず、力を抜くと、
エースも私の髪から手を離した。
その代わりに、私の頭に腕を回し、さらに口づけを深くする。
しばらくは、意に反した唾液の絡み合う音が森に溶けた。
……そしてエースは、いつまでも、純情にキスだけする気はないようで。
別の手が、慣れた調子で私の身体に触れていく。
――……っ!
本能的な恐怖で、全身が総毛立った。
この瞬間まで、もしかしたらこれはエースなりの悪質すぎる悪ふざけではないかと
期待していた。次の瞬間には『なーんて、本気にした?』と言うのではと。
でもエースの手に迷いはなく、顔には貼りついたような嫌な笑み。
――エース……本当に?本気で私を……?
そしてビクッと身体が揺れる。エースの手が私の下半身に触れたのだ。
指先でチラチラと、大事な部分に、くすぐるように触る。
元の世界なら、これだけで犯罪だ。どんなに楽観的に見ても、この状況はマズイ。
「カイ……好きだよ」
そして手が、私の服のボタンに触れた。一切の間を置かず、外し出す。
――や……っ!
そして服を左右にはだけられ、胸を守る下着があらわにされる。
「はは。可愛い下着じゃないか。双子君の趣味?」
――……いや……っ!
今度は無遠慮に下着に触れられ、顔が真っ赤になる。
でも多分、私は震えている。臆病な小娘の内心を見透かしたように、エースは、
「大丈夫。優しくするし、これでも責任は取るぜ?俺って騎士だからさ」
ブラックジョークを指摘する余裕さえない。
エースは私の反応を見ながら、下着の上からゆっくりと胸を愛撫する。
「君がどんな身体で、どんな反応をしたか、双子君にちゃんと教えてあげなきゃな」
笑いを浮かべる。邪悪な笑みを、楽しそうに、
「それであの二人が君を捨てるなら俺は喜んで引き取るし、君に何かするなら、
さっそうと助けに行くぜ。どうせ君はまた口がきけないんだろう?俺が弁護して
あげるしかないよな」
……絶対に、弁護ではなく、状況をややこしくするだけだろう。
エースはわざとらしく下着を指先で持ち上げ、また元に戻して、ふざけて笑う。
そのたび、胸がかすかに外気に触れ、心臓が止まりそうな思いだった。
でもどれだけもがいても、騎士の体重を押し返せないし……さっきつかまれた箇所は
まだヒリヒリして痛みを訴えている。
――どうすれば……。
女性の本能が深刻な危機を訴える。
でも何も出来ない。私は屈強な騎士に力ではかなわず、震えているしかない。

――本当に?

……ふと思った。私はまだ多少動けるんじゃないだろうか。
そして、まだ出来ることがあるんじゃないだろうか。

例えば……大声を出すとか。

5/8

続き→

トップへ 目次に戻る


- ナノ -