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■エースVS.双子

二人に会えると思うと、何となく浮き足立ってきます。
でかいけど。でかくて馬鹿力だけど。でかくて馬鹿力で××だけど。
でも嬉しい。ディーとダムに用事があって会える。
……あと、襲われないように注意しませんと。
――んふふ〜♪んふんふ〜♪
そろそろ鼻歌くらいは口に(?)出してもいいのではなかろうか。
と、己にツッコミつつ、私はスキップしながら屋敷の庭を行きます。
――あと、何とか二人をだまくらかして、外に出たいですね。
引っ越しして新しい世界になった不思議の国。
大きな塔とか、見慣れない森とか、楽しそうなポイントがたくさんあります。
三人でデート兼散歩というのも楽しそうです。
手の中の小瓶を宙に放り投げては、危なっかしく取り、私は門に向かいました。

そして。

――……げ。

「あはははは!カイ!久しぶりだなあ」
聞こえない、聞こえない。私にかけられる陽気な声なんて聞こえない。
いつぞや私を連れ回し、ナンパ行為をし、軽犯罪一歩手前の行動までした男の言葉
など、断じて聞こえはしません!!
ですが、ディーとダムがいます。再び門を見ないわけにはいきませんでした。
「カイお姉さん……」
「お姉さん、何でこんなときに。ていうかさ……」
戸惑ったように私を見るのは、大人バージョンのディーとダム。
「……お姉さん、茂みに隠れてこっちをうかがうとか、止めてくれないかな」
「僕ら、傷つきやすい子供だから、お姉さんに警戒されると傷ついちゃうよ」
はい。カイさん、茂みの陰から門をうかがっております。
いえいえ、これはエースを警戒してですね、決してあなたたちを敬遠しては……。
仕方なく私は茂みから立ち上がり、とてとてと、門のところにいきました。
でもエースに微笑まれ、ピタッと立ち止まります。
「カイー!元気そうだな!」
いつも通り、陽気に手を振ってくるエース。
ん?しかし、何だか違和感があるような……。

それにディーとダム、エース。初めて見る組み合わせな気もします。
この三人は何をやっているのでしょう。実はお友達だったとか?
私は疑問もこめ、ディーとダムを見、首をかしげます。
『っ!!』
いったい私の態度に何を感じ取ったのか、二人は赤くなりました。
「お姉さんが、僕らのカッコイイ活躍を期待してるよ!」
「これは絶対負けられないよ、迷子騎士を×の海に沈めなきゃね、兄弟!!」
え?何も思ってませんがな。というか昼間から何、怖いこと言ってますか。
しかし二人は臨戦態勢に入り、武器を構えます。
少し離れた場所に突っ立っている私を、守るように前に立ち、
「お姉さん、危ないから、もう少し下がってて!」
「安全なところで動かないでね!こっちに来ちゃダメだよ!!」
はいはいはい。よく分かりませんが、言われずともそういたします。
私は双子から少し離れた草むらに正座し、観戦体勢に入ります。
二人に対峙するエースはというと、
「あははは。大きくなったくらいで俺に勝てると思ってるんだ」
「調子に乗るなよ、騎士!」
「もう迷い込んでこないように、息の根を止めてやるからな!」
……安心して見ていられる戦いではないようです。
そして、斧と剣の戦いが始まりました。

…………

――ウソ……。
私は呆然と目の前の光景を見ていました。
私は、二対一で、ディーとダムの圧勝と予想していました。
もしくは対エリオットさん戦のように、適当に終わるかと。
「まだまだ修行が足りないな。身体だけ大きくなっても、俺には勝てないぜ」
と、悠然と剣を鞘におさめたのはエース。
そして地面に傷だらけで横たわるのは……ディーとダム。
苦しそうにこぶしを握りしめるものの、立ち上がれない様子。

二人がこうも、為すすべなく地面に横たわるのを見たのは初めてです。
驚きすぎて、いつものように『応急処置!消毒薬!』というノリにもなれず、私は
固まったまま、動けずにいました。
そんな呆然とした私を見たエースは、こちらに笑い、
「カイ、カイ」
と、猫を呼ぶように手招きいたします。
私はとっさに立ち上がり、警戒態勢。
どうしたものか。倒れた二人を置いて屋敷に逃げ戻ることは出来ません。
けど誰かを呼ぶにしても、私は声が上手く出せないと来ています。
「ほら、カイ。こっちこっち。一緒に旅に出ようぜ」
……何で、私がディーとダムを放って、あなたについていくんです。
けどエースは表情を読んだのか、
「えー?だって、双子君を軽々とノシた俺に惚れたりしない?」
いえ、そういう手軽な設定じゃないですから、私!
とにかく二人の傷の具合を見ようと、私は急いで二人の元に駆け寄ります。
「お姉さん……カッコ悪いとこ、見せちゃったね」
「カイお姉さんの前で、騎士に負けるなんて……」
二人は、すっごくすっごく悔しそうでした。私が傷をみるほどに男の子の顔に戻り、
ぶっきらぼうに『大丈夫』『何でもないよ』と言います。
その割には神経質とも思える目つきで、私をうかがってくるのですが……。
――何とも思ってないですよ。
恋人たちを安心させようと、優しく微笑んで頭をなでてあげる。
エースはというと、そのやりとりを青空のような笑顔で見ています。
「ふーん、少しは恋人らしくなってきた?ライバルとしては面白くないけどさ」

……そういえば以前、私を狙う、みたいなこと言ってましたっけ、この人。
完っっ全に忘れてましたが。

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