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■大きくなった双子・下

「捕まえた!」
「逃げても無駄だよ、カイお姉さん!!」
ドタバタと室内を逃げ回った末に捕まりました。
鬼が斧を振り回す大人二人って、どんな嫌がらせですか。
しかし二人はすぐに変なことをする気はないのか、私を抱き上げ、あのときみたいに
ギューッと抱きしめてきました。サンドイッチ再びです。
「お姉さん……小さくて気持ち良い」
「やわらかいし、すごく可愛い」
そのまま、二人に抱きしめられました。
『…………』
どちらも口をきかず、時間が過ぎていきます。
暖かい。戸惑い気味だった私の心も少しずつ落ち着いてきました。
二人だけど二人じゃない顔がそばにあって、本当に嬉しそうに私を抱きしめていて。
何だか安心してきました。
「お姉さん……」
ディーが、私の顔を自分に向けさせる。
うーむ、悔しいけどカッコイイです。
その深い青の瞳に吸い込まれそう……て、カラコンかもしれませぬが。
そして後ろからはダムが私の身体を何やら触り出す。
――て、またですか?あなたたち、次の時間帯にお仕事があるんじゃ?
私は抱きしめられたままジタバタしますが……二人はビクともしません。
まあ子供の時点で負けてましたし。
私は半ば諦め、身体の力を抜き、二人の好きにさせることにしました。

そのとき、何かがゴトッと落ちた音がしました。

――ん?今度は何ですか?
ただ、下を確かめたくとも、身動きが取れません。
――あ、そうだ。話せばいいんですよ。
引っ越しも起こったんですし、これを機に無口キャラを卒業せねば。
私が二人に、気がかりを伝えるべく息を吸った瞬間。
「ガキどもーっ!!いつまで休憩してんだ!さっさと持ち場に戻れ!!」
怒声と共にエリオットさんが……扉を蹴りでぶち抜きました。

「いいところだったのに……馬鹿ウサギ」
「僕らとカイお姉さんの仲を邪魔するなよ、ひよこウサギ」
双子は私を抱きしめたまま。罪悪感はゼロなようです。
エリオットさんは、サンドイッチにされている私を見ますと、怒りで顔を赤くし、
「てめえら……引っ越し直後で、対抗勢力の奇襲を警戒してるときに……」
エリオットさんの殺意ある視線に身を縮めますと、エリオットは慌てて、
「違う違う、カイ。あんたじゃねえよ!」
いえ、こちらこそ失礼を。
とりあえず、ゆるんだ二人の腕からやっと離れ、地に足をつけました。
そして改めてディーとダムを見上げます。
……やっぱり大きいですなあ。本当に同一、いえ同二人物?
みんなして私をだましてるんじゃ?という思いすら浮かびます。
でも私の視線に気づいた二人は、叱責の最中だというのに、ニコっと笑います。
……認めたくないですが、ドキッとしました。
この無邪気な笑顔は、間違いなくあの二人です。
「いいから、さっさと行け!侵入者を許したら、本当に××××するぞ!!」
エリオットはどやしつけ、グチグチ言う二人を扉に追いやっていく。
「お姉さん!続きは後でね!もう少しの辛抱だからね!」
「我慢出来ないかもしれないけど、大人しく待っててね」
……路地裏で半端に反応したのがいけなかったのか。
セクハラまがいな発言をし、二人は扉の向こうに消えました。
2のエリオットは不機嫌そうでしたが、私には優しい顔で振り向き、
「カイ。まだ地形が不安定だから、あんまりウロウロするなよ。
あんたは、ブラッドとお茶会をするか、昼寝してくれればいいからさ」
そう言って扉を閉めます。

後には部屋にポツンと私だけが残されました。
あまりうろうろしてくれるな、というニュアンスのようですが、言われなくとも
そうします。だいたい、外に出ようにも双子が出してくれるとは思えませんし。
――さて、どうしたものですか……。
扉の外はバタバタと使用人さんが行き来し、忙しいようです。
この状況で昼寝、というほど腹がすわってるわけでもなし。
お茶会もいいですが、ブラッドさんとの一対一は……失礼ながら気まずい。
――部屋でも片づけますかね。
鬼ごっこで走り回ってしまって、子供部屋はさらに散らかっています。
とりあえず床に落ちた『何とか君』やら武器やら(!)を拾い集めていると、
――あ。
私の手が止まりました。忘れてた。
さっき、ディーとダムに抱きしめられたとき、床に落ちたものです。
私はそれを取り上げ、しげしげと眺めました。
――何でしょう、これ……?
多分、私が落としたものだと思うのですが、見たことがないです。
ディーとダムの物、というには女性の持ち物っぽい。二人からのプレゼント、という
感じでもなかった。もちろん私に覚えはありません。
――はてさて。
私は中身がいっぱいになった『ハートの小瓶』を、光にすかし、首をひねりました。

――そうだ。ちょっと二人に聞きに行ってみますか。

私は手の中の小瓶を握りしめ、扉の外へ出ました。

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