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■大きくなった双子・上

その後、エリオットさんに連れられ、私たちはお屋敷に戻りました。
そして帽子屋屋敷では、引っ越し後、最初のお茶会が行われています。

紅茶をお飲みになるブラッドさんは、私に仰いました。
「まだ信じられないようだな、カイ」
そして、左の下座についたデカイ二人を見ます。
二人は私の視線を受け、ニコッと笑います。
が、私はびっくりしてしまい、あわてて視線をそらしました。そんな私を見ながら、
「二人は間違いなく君の恋人たちだ。
我が帽子屋屋敷の門番、トゥイードル=ディーとトゥイードル=ダム」
説明して下さるブラッドさん。そしてボスの右で、苦い顔のエリオットさん。
ディーとダムが、私を探しに行っただけならともかく、路地裏でイチャついてた事に
エリオットさんはたいそうご立腹です。しかしデカくなった双子は、
「時間を進めてみたんだ。お姉さん、子供に興味はないって言ったし」
「説明してなかったから、気づかなかったんだね。ごめんなさい、お姉さん」
――…………。
場の全員の視線を受け、私はただただ、混乱の中でうつむきます。

とりあえず、風景がいろいろ変わったのは『引っ越し』が起こったからだそうです。
それについては、ブラッドさんから改めて説明を受けました。
私は完全に納得出来ないまでも、何とかそれを頭に入れました。
……双子がデカくなった。そちらのインパクトが凄まじすぎたからかもしれません。

さて、二人が何でいきなり大きくなったか。
双子とファミリーの人たちの説明を総合すると、やはり私が原因だったそうです。
「だって、お姉さんが子供が嫌だって言うから」
「だから大人になってみたんだよ。どう?カッコイイ?」
二人は平然として、こちらに流し目など寄こしてきます。
引っ越し直前のことですが、私は二人に『子供に興味がない』と口走りました。
今から思うと、少々無神経な発言だったかもしれません。
ですが当の双子は、それにいたく傷ついた……ということはなく。
『なら大人になろう』と大人になったそうで。ハイ終了。
理屈はさておき、そういうノリでいいんでしょうか、不思議の国。

…………

お茶会の後、私と双子は部屋に戻りました。
「あーあ、ひよこウサギの邪魔さえなかったらなあ」
「きっと僕らとお姉さんの仲に嫉妬してるんだよ。今度、斬っちゃおうか」
ディーとダムは、自分たちの部屋のソファでくつろいでいます。
子供サイズのときは、少し大きめだったそのソファは、今やサイズぴったりです。
大人になった双子。よく見ると足をブラブラさせたり、ときどき身体を揺すったり、
細かい挙動は子供のままです。けど足を組み、無邪気な残酷さをもって、微笑みを
かわすさまは、マフィアの若き鉄砲玉、という風に見えなくもありません。
そして、血気盛んな若者の交わす会話は、
「お姉さん、物陰からじっと僕らを観察してるけど、何だろうね」
「またストーカーごっこじゃない?困ったお姉さんだね」
……やかましい。
追い回した挙げ句、路上で××行為に及ぼうとしたのはどこのどいつらですか。

「カイお姉さん」
そして、ヘアピンの人改めダムがソファから立ち上がる。
私は身をひそめていた物陰で、しゃがんだままビクッと身体を強ばらせました。
しかしダムは無闇に近づき、私を怯えさすということはなく、
「お姉さん、カイお姉さん」
少し離れたところにしゃがんで目線を合わせ、手招きします。
長髪のディーもソファから、
「カイお姉さん。こっちへおいでよ。僕らとお菓子を食べない?」
……何すか、あんたら。その『警戒する猫を懐かせようとする』的な行動は。
しかし、歳上としてみっともないので、私は渋々物陰から二人の方へ近づきました。
するとダムも嬉しそうに立ち上がり、
「カイお姉さん!」
と腕を広げます。

……大きいですなあ。

「……カイお姉さん。何でさっきより、さらに遠くに離れてるの?」
へ?……あ、無意識に後じさってました。いや、まあ、その……。
私はどうも落ちつかず、目をさまよわせ、ソワソワします。
中身は子供と分かっていても、大人の男性二人と同じ空間にいる。
それがとてもとても緊張するのです。
一方、離れた場所にいる二人は挙動不審な私をしばらく観察していましたが。
……二人で顔を合わせ、ニヤリと笑ったのでした。嫌な予感が……。

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