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■穏やかな時間

目を閉じて、ゆっくり眠る。
風が気持ちいいですなあ。ぐう、ぐう……。
「お姉さん!」
「カイお姉さん!寝ないでよ!!」
――はっ!
恋人たちの声に、カイさん、すぐに起きましてよ。

慌てて身体を起こしますと、私は屋敷のお庭にいました。
「あんた、30回くらい声かけて、やっと起きたな……」
と、呆れた顔で、私を見下ろすエリオットさん。
お仕事帰りのようで、怖い匂いがします。
「ふむ。医者を呼ぶ必要は無さそうで何よりだ」
横で、悠然とステッキを構える変態帽子。
「いや、別の意味で医者を呼んだ方がいいんじゃねえか?」
私の腕を引っ張って起こして下さる三月ウサギさん。失礼な。

カイさん、散歩中に行き倒……眠気を誘われ、横になって休んでました。
寝起きでフラフラしていると、後ろからガシッと支えてもらえました。
ちょっと振り向くとディーが私の背中を支えていて、
「カイお姉さん、もしかして僕らを探して倒れちゃったの?」
いえ、別に。
ダムも申し訳無さそうに私の手を取り、
「恋人に寂しい思いをさせてごめんね……ありがとう、お姉さん」
いえ、マジで別に。
「ごめんねお姉さん!」
「お詫びに、今度デートしてあげるから!」
二人は両側から、大切そうに私の腕をつかみます。
実を言うとまだ眠たいのですが。
「……カイ、何か迷惑そうじゃねえ?」
いやいや、まさかまさか。高速で首を左右に振ってみましたが、
「うらやましいくらいに見せつけてくれるものだ。若さとはいいものだな」
黙れ××帽子。誰のせいで、双子が前以上にしつこく……熱心になったと。
しかしボスは私に肩をすくめ、エリオットさんに合図します。
エリオットさんもうなずき、お屋敷に身を翻す。振り向きざま、
「じゃあな、カイ。ガキども!カイをあんまり疲れさせんじゃねえぞー!」
と、屋敷にまで聞こえるような大声で仰って、去っていかれました……。


まあ、あの夜の『ボスの気遣い』は、ブラッドさんなりに、グズグズする私の背を
押してくれた。そう解釈することにいたします。
舞踏会の後、私たち三人は前以上に親密になり、一緒の時間を過ごしていました。

私は青空の下、ため息一つつき、草むらに座り直します。
カイさん、睡眠リベンジを諦めておりませんよ。でも、
「お姉さん!」
「ねえ聞いて聞いて!」
目を閉じるより早く、双子が抱きついてきます。そして武勇伝開始です。
「今回も、ザクザク斬ってきたんだ!スパスパやってブシューってなってさ!」
「囲まれてダダーン!ズババーって撃たれたんだけど、ババーってやり返して!」
子供の説明なため、状況がさっぱり。オノマトペの多用も止めましょうね。
しかしまあ、抗争があったということは分かりました。
実際、ディーとダムの身体のあちこちに、傷が見えています。
私はまたため息をつき、双子用の応急処置セットを取り出しました。
「っ!お、お姉さん……」
「だ、大丈夫だ、から……」
途端に言葉をつまらせ、真っ青になる二人。
大丈夫。痛くない。痛くないですよ〜。悪魔の笑みを見せるわたくし。
「ぼ、僕、用事を思い出しちゃった……うわっ!」
逃げようとするダムの襟首を光速でつかみ、無理やり草むらに引き倒す。
「お、お姉さん。ごめんなさい、ごめんなさい……」
手足を押さえつけると、震え、涙目で見上げてくるダム。
……何か虐待でもしてる気分です。
さあて、脱いでもらいましょうか。
「お姉さん、何か楽しそうだね……」
少し離れた木の陰から、心持ちうらやましそうに言うディー。
安心なさい。次はあなたの番ですからね、と微笑むと、ビクッとする青い子。
私は順当にダムの制服のボタンを外していく。
あー、もう。赤の制服で隠れてるけど、あちこち傷だらけですねえ。
傷の程度を確かめるため、身体を撫でていると……なぜかダムが顔を赤くしてます。
「な、何かお姉さんに押し倒されてる気分……」
恐ろしいことを言い、もじもじしてるダム。そして木の陰から楽しそうにディーが、
「ねえねえお姉さん!今夜はそういうプレイにしない?
お姉さんが、僕らを襲うっていうシチュエーションで」
子供がプレイとかシチュエーションとか言うな!!
……まあ、夜のご要望に関しては、ちょっと検討いたしますが。
しかしお姉さん、生理食塩水の瓶を取り出します。
勉強の甲斐もあって、今は正しい処置法が頭に入っています。傷口をしっかり洗い、
傷周囲を軽く消毒、薬を塗った滅菌ガーゼを傷口に当て、テープで固定。
ほーら、言葉にすると痛くない。
そして、私は怯えるダムの傷の、応急処置を開始します。
かくして庭に絶叫が響いたのでした……。

…………

あー、一仕事したら眠い。眠いのです。
枕があるっていいですねえ。
「お姉さん。僕らに『だけ』世話焼きなのが困るよね」
私の頭を膝に乗せ、髪を撫でるディー。
それから、少し身体を動かし、私に上手な逆さまキス。
私は夢うつつで、それを受け入れます。
「僕らのことが好きで仕方ないんだよ。本当に困ったお姉さんだよね」
ディーの横で頬杖をつき、やっぱり私の髪を撫でるダム。
ダムも私に顔を近づけ、頬に手をあて、優しくキスをしてきます。
二人ともガーゼとバンソウコウだらけです。
……というか何、調子こいたことをほざいてるか、貴様ら。
でも私はしゃべる気になれず、ディーにしがみつき、ダムに撫でられ、うとうと。

以前と変わらない、穏やかで静かな時間。
でも、あの舞踏会のとき以来、少しだけ変わったことがあります。

「僕らも横になりたいね、兄弟」
「そうだね……ね、お姉さん。一緒にお昼寝しようよ」
――んー?
ちょっと身体を動かされ、頭の下に何やら堅い感触。
軽く目を開けると……子供二人に腕枕されています。
双子が横になり、私を挟んで三人で川の字……いえ、私の方が背が高いから、えーと
該当する字は……どうでもいいですか。

私はうつらうつら、眠りに戻っていきます。
そして私に向き合い、大切そうに私を抱きしめてくれるダム。
反対側からもギューッと腕を回すディー。
そして私は、安心しきって目を閉じます。
風の音、草の匂い、暖かい日差し。何があっても双子が守ってくれます。


ディーとダムがお仕事から帰ってきたら、まず傷の手当て。
それからキスして一緒にお昼寝。
それが、最近の私たちの習慣になりつつありました。

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