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■恐怖の双子

そして心の内で悲痛な絶叫を繰り返す私に、夢魔さんは悲しそうに、
「ここまで拒絶されると、夢魔として虚しくなってきた……吐血したい」
ナイトメアさんは急に不穏なことを仰って、フラフラと変な空間を飛ぶ。
血を吸う元気も無く、落ちるように飛んでいく秋の蚊のように。
――すっごい嫌な上、失礼な例え方ですね。すみませんです、ナイトメアさん。
……と一人漫才したところで聞く人もなく。
でも今の、けっこうイケてる比喩は聞いてほしかった!
そしてナイトメアさんは最後にゆらりとこちらを振り返り、
「まあ。慣れれば心を開いてくれるだろう。また様子を見に来るよ、カイ」
力なく微笑み、その輪郭もゆっくりと薄れていきました。
「……っ」
何か言おうと思ったのですが、結局、今イチ言葉が浮かばず。
夢魔さんは消えていかれました。
そして私も何かに呼ばれるように、不思議な空間の水面へ……

『カイっ!!』

大きな声がした。
え?
目を開けると、目の前にエリオットさんがいました。

と、認識しているヒマもなく、私は強い力で抱きしめられまし――
「カイーっ!!無事で良かったぜっ!!」
「っ!!」
あまりにすごい腕力に、背骨か肋骨が折れるかと思いました……。
「またガキどもにいじめられたんだって?怖かったな。だけどもう大丈夫だ!」
く、苦しいですが……耳が!魅惑のウサギ耳がすぐそばに!!
ついに私は手を伸ばし、お兄さんの耳に触れてみる。
するとエリオットさんはちょっと嬉しそうな顔になり、
「お?何だよ。あんたから何かするなんて……て、痛!いてててっ!!」
引っ張ったらものすごい悲鳴。演技にはとても見えない。
根元を探っても、ウサ耳カチューシャ?みたいなものはありません。
どうも本当に、頭にウサ耳が生えているらしいです。

――私、本当に異世界に来ちゃったんですね。

今頃になって自覚し、呆然とする。
ええ?異世界?本当に?ていうか、何をすればいいんですか!
世界を救う大冒険なんて面倒くさいです。容貌からして通行人Aですし!

と、心密かに呆然(?)としていたら、手の力が弱ったらしいです。
その隙を逃さず、エリオットさんはやんわりと私の手を耳から離させました。
そして苦笑いしながら、
「物静かに見えて、乱暴なんだな。まあそれくらい元気なら、すぐ起きられるだろ」
と、ここでようやく、自分が置かれている状況を把握しました。
私はまたも、最初に寝ていた客室のベッドに寝かされております。
誰が着替えさせたのか、またネグリジェ。
窓の外は、今度は夕方になっています。もう頭がすごく痛いです。

「あんた、身体が弱いんだな。
ガキどもは俺がしめとくから、もう安心してくれ!」
え?今度は身体が弱い設定追加ですか?
いえいえ、気絶したのは唐突に夜になったせいです。頭がパンクしたのです。
斧や双子の子は確かに怖かったけど、さすがに気絶するほどじゃないですよね。
と、心の中でまたもブツブツと呟きつづけていると、部屋の扉から、

『嘘言うな、馬鹿ウサギ!お姉さんに会わせろよ!』
『僕ら、お姉さんに嫌がらせなんかしてないよ!!』
ドンドンと、騒がしく扉を叩く音が聞こえます。
あー。そういえば、あの双子から離れるため、屋敷を出ようとしてたんだっけ。
あの双子がここに侵入する前に何とかして窓から出て、と計画をまとめていると、

斧のすっごい斬撃音。そして、振り向くと扉から、にょっきりと突き出た斧。
何か、ホラー映画にこういうシーンあったなあ……。
そして悪霊よりも凶悪な双子は手を緩めない。
ガンガンと順当にドアをたたき壊して、ついに入ってきた。
「おい!カイは起きたばかりなんだ!またおまえらが何かしたら……」
エリオットさんが、私を守るように前に立ちはだかって銃を構えました。
え?銃?
「おっと!」
「ウサギに僕らを捕まえられるわけないだろ?」
小馬鹿にしたように、双子はエリオットさんの銃撃をかわす。耳が痛いの。
そしてついに双子はエリオットさんのディフェンスをくぐり抜ける。
二人は私の元にかけよって、ゴール、とばかりに嬉しそうにベッドに手をつく。
さながら、尻尾を振りまくる子犬のように私に飛びついてきました。
こ、怖!ていうか私はネグリジェですが!あと斧が近いから止めて!!
「この!くそガキども!!」
エリオットさんが悔しそうに振り返るけど、二人とも聞いちゃいません。
私に顔(と斧)を近づけ、息せき切って、

「まだ名乗ってなかったよね!僕はトゥイードル=ディー!」
「僕はトゥイードル=ダム!これからよろしくね、カイお姉さん!」

で、ドアの修繕は後ほどして下さいますよね……?

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