続き→ トップへ 目次に戻る

■双子の告白

引き続き、ハートの城、舞踏会会場です。
そこでは格調高いオーケストラの演奏に合わせ、さまざまな領の男女が、仲睦まじく
ダンスに興じておりました。そして、その華やぎの中心地にて……。

三人が踊っていました。うち二人は子供。残る一人はガクガクな少女。
「お、お姉さん、顔が真っ青だよ?」
「大丈夫?ちょっと休む?本当に休もうよ!!」
他の方々の注目を集めているのは、何も『無理やり三人で踊っている』からだけでは
ありますまい。ブラッドさんや他の役持ちの方に教えていただいたステップ、会場の
ど真ん中で踊る緊張感。いつもと違うディーとダム。そして緊張、緊張、緊張。
何て言うかこう……いっぱいいっぱいです。
「お姉さん、こっちに来て!」
「無理しないで!カイお姉さん」
ついにディーとダムは、踊るどころではなくなりました。
周囲の視線をものともせず、無理やり私をダンスの輪から引きずり出す。
ああ、今のメヌエットで、もっと踊りたかったのに……。

私カイ、一曲も踊りきらず会場を後にいたしました。

…………

――ふう……。
ハートの城の客室は、薄闇に包まれています。
私は靴を脱がされ、ベッドでぐったりしておりました。
「お姉さん、はい、お水」
ディーが子供とは思えないしっかりした力で、私を支え、お水を飲ませてくれます。
冷たい清水が喉を快く通っていきます。
「お姉さん、熱くない?もっとあおぐ?」
備品として置いてあった扇子で、ダムがあおいでくれました。涼しい。
――て、あああ!子供に何、世話を焼かせてますか、私!
最大級に悶えつつ、ふかふかのベッドに沈みました。
「お姉さん?自己嫌悪?ちょっと気分良くなった?」
「頭を抱えてのたうち回れるなら大丈夫だよね」
するとディーとダムが私の両横に寝そべりました。こらこら。


私たちは何をするでもなく、のんびりベッドに寝そべっています。
テラスから見えるのは、幾千の星々。遠くから潮騒のように舞踏会の音楽が届く。
出窓から吹き込む風は少し涼しく、ディーとダムは、嬉しそうに私を見ました。
「本当に、お姉さんって放っておけないよね、兄弟」
やかましい。頭を撫でるな、青い方。お姉さん、泣きそうだから。
「僕らが見ていて良かったよ。でなきゃお姉さん、今頃……」
言葉の後半を省略するな、赤。泣くから、それ以上優しくすると本当に泣くから!
「ご、めん、なさい、二人、とも……」
まだしゃべるのに慣れていない喉で、どうにか二人に謝る。
するとディーとダムは、私を挟んで顔を見合わせ、同時に笑う。ディーが、
「ねえお姉さん。今回はちゃんと僕ら、お姉さんを守ったよね」
まあ、言われてみれば……。
役持ちの方々の引き合い?から助けてもらい、ダンスの最中に体調を悪くしたとこを
客室まで連れて行っていただき……。
「最初は僕らがお姉さんに守ってもらってたのに……僕らだって守れるんだよ」
と、誇らしげに言うダム。ん?別にあなたたちを守った覚えは……。
ああ。最初の頃の『消毒液ぶっかけ絶叫応急処置』ですか。
あれを『守ってもらった』と言い切れるあたり、やはりブラッディ・ツインズ!
……いえ、どうでもいいですか。マジで。
『お姉さん』
また自己嫌悪に突入しようとしましたところ、双子に呼びかけられました。
そしてかすかな明かりの中で、双子は頬を紅潮させ、言います。

「カイお姉さんのことは、これからもずっと僕らが守るよ」
「声が上手く出せなくても、僕らは全然大丈夫だし、お姉さんを助けるから」
少年たちは真剣そのものなまなざしで、私に訴えかけます。
「カイお姉さん、愛してる。いつまでもずっと……」
目を閉じて、ディーが私にキスをする。やわらかく、熱いキス。
「大好きだよ、カイお姉さん。誰よりもお姉さんを守りたい」
ダムも、私に強く優しいキスをする。私も目を閉じていました。
そして熱心に訴えかけました。
「大好き!僕らから離れないでいてくれるなら、もう休みがなくてもいいよ!」
「大事にする!お姉さんが一緒にいてくれるなら、いっぱいお金をあげる!!」
……待て。
ディー、あなた、過労死する気ですか。
ダム、それ、金で私を買うとも取れる発言ですよ。
とまあ(心が)大人なお姉さんは、子供の真剣な訴えには突っ込まない。
つまり、それくらい私を大切に思ってくれているという比喩表現なんでしょう。
しかし現実は冷酷。
――困りましたねえ。
これが、お姉さんのとても素直な感想でした。

××××趣味はないです。興味がないのです。
誰よりも好意を持っているし、弟みたいに思っていますが、恋愛感情はありません。
――でも子供だからと言っても納得するとは思えませんし……。
しかし交換日記から、という段階でもない。
かといって『複数』が嫌だとか別の理由を持ち出せば、いつぞやの花畑のごとく、
この場で斬り合いを始めるでしょう。

うう、前門の虎、後門の狼。
し、しかし私を愛していると言ってくれる子たちです。
案外、私が拒否すれば、潔く身を引いてくれるかも……。
「あの、もし、私が、ダメって、言ったら……」
恐る恐る言ってみましたところ、

「お姉さんの心臓をもらう」
「僕らのものにならないなら、誰のものにもなってほしくないよね」

……手に入れられない玩具のごとく、平然と言い切りました。
い、いやいやちょっと待って下さいな。ディー、ダム。
「それ、脅し……」
色んな意味で危機感を抱き、おずおずとツッコミを入れます。
すると、双子はとんでもない、という顔で、
「まさか!僕らが大好きなカイお姉さんを脅すわけないじゃない!」
「一生懸命の告白だったのに……お姉さん、子供を傷つけるなんてひどいよ!」
……なぜかニヤリと顔を見合わせ、二人して私にのしかかりましたです。
――うわっ!!
むろん、こちらは疲れていて、抵抗出来ませんで。
そして私の頭を嫌な予感がかすめる。
――この子たち、まさか最初から『拒否すれば×す』と脅迫する気で告白を……?
度重なる私のつれない態度に内心キレて、もう力押しで行くことにしたとか?
しかし怖くて聞けやしない。

そして双子の悪鬼は上と下を押さえつけながら、邪悪な笑いで告げます。

「お姉さん、言ってよ。僕らを『愛してる』って……言うしかないよね?」
「『二度と離れない』って誓ってくれたら……ごほうびに優しくしてあげる」

……私に恋してくれたのは、ただの子供ではないと。
異世界の恐るべき子供。マフィアの門番、ブラッディ・ツインズであると。
ブラッドさんの忠告が、今頃、深く深く身に染みましたです。

子供子供と、甘く見ているうちに、気がつけば袋小路に追いつめられ。
今や選択肢のない問題を迫られるカイさんでした。しくしく。

4/6

続き→

トップへ 目次に戻る


- ナノ -