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■選択・下

そして舞踏会が始まり、会場には、きらびやかな音楽が鳴り響いております。
その隅っこで私カイは、引き続きダンスの練習中でした。

「うーん、基本的なステップは合ってるんだけどなあ」
エースは私の手を取り、困った顔ながらリードして下さいます。
「どっちもどっちだな。カイ、おまえは緊張しすぎだ。
そんな真っ赤になって、泣きそうな顔で踊る奴があるか。
エース。おまえも形だけで、足運びが間違いだらけだ」
ユリウスさんは腕組みし、冷静に論評されております。
「えー?だって俺、正式なレッスンなんて受けたことないしなあ……。
下手でも堂々と踊ればいいんだって。他人のダンスなんてそんなに見てないさ。
な、カイ?」
――あ、そ、そ、そうですよね。
自意識過剰であると分かってはいるんですが……。
ディーやダムとは何回もキスしたし、×××も済んでるのですが、何かこうですね、
ちゃんとした大人の人と、かしこまってダンスとなると、何か緊張しちゃって……。
するとユリウスさんが壁ぎわから離れ、
「仕方ないな……エース、替われ。私が教える」
「えー?ユリウス、俺からカイを盗るつもり?」
エースが私をギュッと抱きしめる。
――ちょ!ちょっと!人前で止めて下さいよ!!
真っ赤になり、もがくけど、騎士様の力は強い。ユリウスさんはムッとしたように、
「間違った奴が教えても、さらに間違った方向にしか行かないだろう」
「でもさ、ちゃんと踊るユリウスなんて想像出来ないぜ。なあ?」
――そ、それはそうですね。
同意を求められ、ついうなずいてしまう。あと、さらにギュッと抱きしめられる。
「いい加減にしろ、エース」
やっとユリウスさんがエースさんから離して下さる。
そして私はユリウスさんに向きあい、ダンスを……。
――でか……!
「……おい、何でもっと泣きそうな顔をする」
――ユリウスさんって180cm、いえ190台。もっとあるかも……。
漫画のキャラの身長なら素直にカッコイイと思えようが、現物が……笑顔もなく
ウサギ耳もなく、黒い服で私を見下ろしていると……その……威圧感すごいっす。
最初に会ったときの恐怖が蘇ってくる。身体がブルブル震えましてですね。
「お、おい!取って食うわけじゃないんだ。さすがに失礼だろう!」
かなり傷ついた顔で仰るユリウスさん。
「あはは!ユリウス。付け焼き刃で親切にしたって、カイは懐いてくれないって」
茶々を入れるエース。
――い、いえ、ユリウスさんを決して信用していないわけでは……!
と思いつつ後じさると、後ろの方にゴツンと……。
「あーあ、こんなことじゃないかと思った」
――て、ボリスさん?
私を支えて下さったのは、スーツ姿でビシッと決めたボリスさんでした。
――うわあ、カッコイイ!
思わず見とれてしまう。私がネコさんだったらきっと一目惚れしています。
正装で決めたボリスさんはそれくらい格好良かったです。
「や!カイ。良かったら俺とダンスしない?」
――え?ちょっと待って下さい、まだ練習が……。
「良かった。じゃ、行こうか!」
私の戸惑いをスルーし、私の手を引っ張るボリスさん。彼の靴の向かう先は、
――……て、ダンスホールに行くんですか!?
てっきり、すみっこのここで、ちょっと踊るだけかと思ってたのに!
「え?どうしたの?どうせならど真ん中で踊ろうぜ」
――い、いえいえいえ!
ど、ドキドキする!恋のときめきじゃない意味でドキドキする!!
ダメ、まだ心の準備が!!
「大丈夫だよ、カイ。ちゃんとリードするから。ほら往生際が悪いって」
「おい、チェシャ猫。こいつが嫌がってるだろう。手を離してやれ」
ユリウスさんが声を出して下さった。
「何?邪魔する気?カイを独り占めしたいんだ?へー」
挑発的に声を低くするボリスさん。そこにさらに誰かが走ってくる音が、
「カイ!来たのなら、なぜ僕にあいさつしに来ないのですか!
これだから余所者の雑菌女は……!」
「あははは!ペーターさん久しぶり!」
何かさらに事態がややこしく……とペーターさんに頭を下げながら思うのです。
「フン、殊勝に頭を下げるのはいい。さあ、踊りに行きますよ!」
「えー、ちょっと宰相さん!横からなんなんだよ!」
「白ウサギ……」
あ、ボリスさんのこめかみが、ピキピキしてきております。
ユリウスさんもちょっと銃を抜きたそう。
ああ!私をめぐって男の人が!……なんて言ってる場合じゃないですか。
私がビビリなため、色んな方にご迷惑がかかっています。
でも誰一人、引く気はなさそう。
私はみっともなくオロオロ。
ちなみにエースはニコニコして、チラチラ私をうかがっている。
あれは油揚げを狙っているトンビの目のような……。

『お姉さん!!』

そして第四の助けが入りました。
……声がすっげえ怒っていますが。

…………

舞踏会会場を双子は早足で突っ切っていきます。
私の手を強く握りながら、兄弟は怒り心頭のご様子です。
「本当にお姉さんって、ちょこまかしてるよね。すぐいなくなるんだから」
「お姉さんは優しすぎるから、声をかけた男にはフラフラついていくんだよ」
「そうだね、兄弟。可愛いお姉さんが、ドレスでもっと可愛くなってるんだ」
「そうだよ、兄弟。僕らがフラフラしてるお姉さんを守らないと!」
……私に判断能力がないみたいな、言われようですなあ。
しかしあの険悪な状況下、場をおさめる行動を何一つ取らなかった私に、反論する
権利はありませんで。はあああ……ダメダメですなあ。


そして会場の一角で二人が立ち止まる。
『お姉さん』
と私を見上げる赤と青の瞳。
制服がなくなり、今はもっと見分けがつかなくなってしまった双子。

「踊ろう、お姉さん」
「踊って、くれる……?」
まだ不安そうに、おずおずと私を見上げる二人。

――あ、そうか。
と私は気がつく。
双子は私を見下ろさない。だから安心出来るんだと。

「……はい」

小さく、私は微笑んで答えました。

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