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■選択・上

さて、私ことカイ。日本から異世界に来た無口な子です。
目下の悩みは年下の少年二名から想いを寄せていただいていること。
しかしまあ、私にそんな趣味はございませんし、そういうのは犯罪です。

で、最近は関係を断ち切る方法を模索しつつ困って、屋敷を出てあちこちフラフラ。
遊園地で遊んだり、時計屋さんに参考書をいただいたり、騎士様にナンパされたり、
連れ回されたり……そして今、舞踏会会場で、双子に改めて迫られています。

…………

絢爛(けんらん)豪華なハートの城の舞踏会。
舞踏会自体はまだ開催されておらず、女王陛下の到着を待つばかりです。
そして、興奮高まる会場の一角に、人々の注目を集める場所がございました。

「いえ、ですから、その……」
私はうつむいてボソボソしゃべる。色んな方に見られ、顔が真っ赤です。
対するディーとダムは、私の両側から腕を引っ張り、必死でした。
再会でちょっとテンション上がってるのかなあ。
「何で僕らと踊ってくれないの?お姉さん!」
「ねえ、踊ろうよ、お姉さん!僕らの恋人なんだから!」
この子たちには、拒否の意向は伝えてあったのですが。
どうも二人とも、スルーと力押しのコンボで強行突破することにしたようです。
困った。困ったなあ。でも、改めて拒否するのもちょっと……。
こんなたくさんの人前で断って、子供二人に恥をかかせるのも罪悪感が。

しかし、それはそれとして……何で二人ともコメディアンみたいな蝶ネクタイ姿?
改めて見ると、帽子屋ファミリーの皆さん、装いが違いますしね。

「おまえら、あんまり女を困らせるもんじゃないぜ?」
「本当、余裕がないよな、ディー、ダム。嫌われるぜ?」
と、見ていたゴーランドさんとボリスさんが、声をかけてくれました。
けど双子は口出しされたのが気に入らなかったのか、ムッとしたように、
「そんなこと、言われなくても分かってるよ」
「でも、僕らは今、お姉さんに返事をもらいたいんだ」
そう言って私の腕にすり寄ります。
そんなあ……だってあなたたち、YES以外の答えは受け付けない方向みたいですし。
うーん。ここで踊ります、とうなずけば丸く収まるんでしょうか。
双子のことは誰よりも大好きです。弟みたいに思ってます。でも子供だし……。
「お姉さん、そんなに僕らと踊るのが嫌なの?」
「僕らが嫌い?一緒に踊るだけでもダメなの?」
大勢の人前です。さすがに泣きこそしないものの、ディーとダムの声のトーンは、
徐々に下がっていく。ああ!ちょっと目がうるうるしてきた!ざ、罪悪感が!

「全く、お嬢さんを困らせて、おまえたちは本当に子供だな」

フッと後ろから両肩に手をかけられる。あ、この方の存在を忘れておりました。
周りの人たちも私の後ろを見上げ、
「ブラッド?」『ボス?』「ブラッドさん?」「帽子屋?」
さあ、誰が誰のセリフでしょう……なんて、どうでもいいですか。
けどブラッドさんの次のセリフは予想外でした。
「お嬢さん、私とダンスの練習をする約束だったな。
間際で悪いが、とりあえず軽く基本を教えよう」
――は?
『は?』
周囲の人々の声がハモる。でも戸惑って、ブラッドさんを見上げると、彼の目が、
『話を合わせろ』と言っていました。なので慌ててコクコクとうなずきます。
「ど、どういうこと?ボス!」
「お姉さん、そんなこと一言も言ってないよ!」
すると帽子をかぶっていないボスが涼やかに答える。
「言ってないも何も、お嬢さんは破滅的な無口だろう。
ダンスの経験がないと、気まずくて言い出せなかった。
だからおまえたちの誘いを、一度は断ったんだ」
ほほう、当の私が初耳ですが。
「だから舞踏会の前に、私と練習する約束をしていた。だろう?カイ」
……あと破滅的な無口って。破滅的なセンスのあなたに言われたくは……コホン。
また合わせてうなずいておきます。
すると、双子は戸惑いと、希望を半々にした顔で、
「そ、そうだったの?ごめん。お姉さん。じゃあ、僕らと踊ってくれる……の?」
私はあいまいな笑みを浮かべるくらいしか出来ませんで。すると、
「ボス!それなら僕らが教えるから!お姉さんは僕らにリードさせて!」
ディーとダムが慌てて、私の腕をつかもうとする。けど、ボスが手で阻みました。
「おまえたちよりも私が教えた方が効率がいい。
余裕のある男なら、女性に恥を欠かせないよう、練習時間をあげなさい」
おお、何か歳上っぽいですね、ボス!そして、
「さ、行くぞ、ガキども。舞踏会の前に一仕事ある。
遊園地の連中も、とっとと散れ!見世物じゃねえぞ!!」ボスの意志をくんだエリオットさん。
観客を散らし、双子を引っ張ってどこかへ行く。
「あ、うん……お姉さん、後でね……」
「お姉さん……」
ゴーランドさんやボリスさんも、場がおさまったと思ったのか、手をふって私から
離れていきました。
ブラッドさんの助け船のおかげで、どうにか場を乗り切ることが出来ました。
とはいえ引っ張られていくディーとダムは、やや戸惑い気味です。
ですが、ボスの命令には逆らえないのか、エリオットさんに素直についていく。
何度もこちらを振り返りながら。
「さて、どうにかごまかせたな」
ボスが私に片目をつぶる。

しかし……感謝はいたしておりますが、問題を先送りしただけですよね、コレ。

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