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■大好きな不思議の国5

「何とか逃げられて良かったよな」
獣道をガサガサ歩きながらエースが笑う。

ここはどこですか、時間帯は昼ですが、森の木々以外、何も見えませんが。
「でさ、このまま街に出られなかったらどうしようか。
二人で森に小屋を建てて、ずっと一緒に住む?あはははは!」
笑えない冗談を言うエース。というか、いつまで私を担いでるんですか。
もうクマさんを振り切ったんだから、そろそろ肩から下ろして下さいって。
ジタバタ暴れていると、
「え?結婚式?参列者はとりあえずユリウスと、あとは森の動物さんでいいかな?」
――いいわけあるかっ!!
ネズミーの世界じゃないんだから!つか、異世界から来た私はともかく、あなたは
ユリウスさん以外の友達がいないんですか!
いや、それ以前にどうやってユリウスさんを連れてくるんです!
あー!!ツッコミたい!すごくツッコミ入れたい!!
もどかしすぎて、担がれたまま、エースの背中をぺちぺち叩く。すると、
「あはは。くすぐったいぜ、カイ。じゃ、俺もお返し!」
へ?お返し……て、いやああ!お尻撫でないで!というか撫で『下ろす』な!
あ、あなた、どこ触ろうとしてるんですか!!や、ちょっと、そこはダメ……!
「カイ、照れるからって暴れないでくれよ。触りづらいだろ?」
――何ですか、それは!!
しかし肩の上では行動にも限界が。
エースの背をどんどんと叩きながら抵抗していると、ふいにエースが手を止める。

「あ、城だ」

――へ?
その言葉に、私も何とか身体をひねり、エースの見てる方向を見る。
すると木々の向こう、眼下に人工の建設物が見えた。

あの正気を疑う……コホン、華やかなデザイン!ハートの城です!!

出られた!やっと文明の世界に出られましたああ!!
エースも肩から私を下ろし、
「やったな、カイ!君が頑張ってくれたおかげだよ」
と頭にポンと手をのせる。
――……いや、誰のせいで遭難したんですか。
「あはははは!顔が引きつってるぜ、可愛くない真似は止めような」
片目をつぶってこちらの鼻にちょんと人差し指。
……私に満ちあふれるこの黒の感情。これは殺意というのでしょうか。
ディー、ダム。お姉さん、潜在能力に目覚めていいですかね?

「よーし、それじゃあ城に向けて、冒険の旅に出発だ!」
――い、いえ、もう私一人で帰りますから……。
でもエースは、強引に私の手を引いて一歩を踏み、

「……あ」

二人して、崖から落ちたのでした。

…………

…………

……ペロペロと。ペロペロと頬を舐められています。く、くすぐったい……!
「カイ、カイってば……!」
いや、ペロペロじゃあない、ザラザラ。舌!舌が痛い!
猫!それもでっけえ猫にほっぺを舐められています。
――変な夢……。
「起きてよ、カイ!」
でも騎士さまよりはいいかと、私は声に応じ、薄目を開けました……。

……どうも私は地面に横になっているようです。
「カイ!起きたんだね、良かった!」
私のかたわらに座る、どでかいピンクの猫さんが叫びました。そして別の声が、
「良かった良かった!!本当に良かったぜ!
俺が急流に飛び込んで命がけで助けた甲斐があったぜ……!!」
猫さんの横に立ち、ううっと言葉をつまらせ、袖で目をぬぐう黄色い眼鏡の人。
「あー!オーナー!嘘ついたらいけないんだー!!」
「そうですよ!オーナーが助けたんじゃないでしょー!」
と騒々しい、さらに妙な格好の人々。彼らは私たちを取り巻いている。
まあ、確かに眼鏡の人の服は、完全に乾いてますが……。
ええと、ここは……崖近くの川岸?
「そうだぜ、おっさん。木の枝に引っかかってたカイを助けたのは俺!!」
ずいっと主張するピンクの猫さん。
――……て?ボリス!?
ハッと正気に返り、私は急いで身体を起こした。
するとボリスさんはすぐ心配そうな表情になり、
「カイ!起きてくれて良かったけど、大丈夫?どこか痛いところない?」
――ありがとうございます。どうもご心配を……。
よく見ると、ここにいるのは全員、遊園地の人たちだ。
ボリスさんにゴーランドさん、あと、賑やかな従業員さんたち。
そしてやや混乱する私も、ここに至る経緯を思い出しました。

そうだ……方向音痴のエースと一緒に崖から落ちたんですよ。すごい高さでした。
どんな絶叫マシーンよりもすごい恐怖……かと思いきや、途中でなぜか落下速度が
弱くなったんですよね。さすが不思議の国!!
で、私は途中でフワフワと木の枝に引っかかりました。
てっきりエースも一緒に枝に乗ると思っていたのですが、
『うーん、その枝、二人の体重を支えるのは無理そうだからね。
君はそこに避難していてよ。俺が一度、下に行ってから、君を下ろしにいくから』
――あ、はいです!
そしてエースさんは私に手を降りつつ、フワフワと落ち……。
……下の急流へそのままゆっくりと落下しました。
――エースーっ!!
私は目をむいて、エースに手を伸ばしたけど結局届かず、
『あはは!そんな優しいところも好きだぜ!!』
と最後まで爽やかに笑い、エースは流されていったのでした。
――ていうか、私はどうやって下りれば……?
ポツンと木の枝に取り残された私でした。
今さら上ることも出来ず、かといって下が川では、飛び下りる決心もつかず。
数時間帯ばかり悩み……そのまま寝てしまいました。

んで、どうやらボリスさんに助けられたようです。
しかし、助けられた場所は遊園地の外。なぜに遊園地の皆さんがおそろいで?

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