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■もうすぐ舞踏会・下

……そういえば、散歩に出かけて、この二人は放置していたんでしたっけ。
怒ってます。ディーとダム、すっごい怒ってます。

二人は気が済むまで私を抱きしめ、やっと離れました。な、内蔵が圧迫されたあ!
そして二人とも私を見上げ、機嫌が悪そうにブチブチ言いました。
「カイお姉さんって、見かけによらず、ちょこまかしてるよね」
「たくさん探し回ったよ。迷子騎士に遊園地で会わなかったら、まだ探してたよ」
「時計屋の部屋から出て来たってことは、今度は時計屋を誘惑してたの?」
「お姉さんは僕らの恋人なんだよ?ちゃんと自覚を持ってよ!」
あ、あはははは!い、いえ、そのちょっと寝ていて。
……ん?遊園地?エースはお城に帰ったのでは?また迷子ですか。
あと恋人の自覚も何も……。
物思いにふけりたい私をよそに、双子は顔を合わせ、ヒソヒソしています。
「お姉さんには困ったもんだよね。どうしようか、兄弟」
「勝手にどこかに行かないように、足を×××××ちゃおうか、兄弟」
グロい!可愛い顔して、そんな怖いこと言うの止めて下さい!
とはいえ、悪いことをした自覚は多少あるので、私は双子の帽子を取って撫で撫で
してあげました。
「……こ、こんなことじゃ、ごまかされないよ?」
「僕ら、子どもじゃないんだからね?」
と言いつつ、素直に撫でさせてくれるディーとダム。
そういうところが子どもなんですよ。可愛いですなあ。
何となく調子に乗って、かがんで二人の額に、チュッとキスしてみたり。
『お、お姉さん……!』
あ、動揺する声までハモった。ディーは顔を赤くして、
「ズルイよ、お姉さん。徹底的にお姉さんを怒ろうって兄弟と決めてたのに」
ダムも頬を染めながら唇をとがらせ、
「ベッドじゃなくても、僕らにリードさせてよ。こんなときだけズルイよ……」
ベッド?ベッドとそれ以外で、立場が逆転するのが気に入らないってことでしょうか。
撫でたのは他意があったわけじゃなくて、何となく可愛いなあって思って……。
「帰ろうよ、カイお姉さん」
「僕らから離れて、迷子にならないでね」
二人が私の両手を、それぞれ強く握ります。
そして二人に導かれ、私は時計塔の階段を下りていきました。

…………

帽子屋屋敷に帰る頃には、時間帯が夜になっていました。
ですが、私はあんまり眠くならないです。
当たり前ですが、昼間に寝ると夜は起きてしまうもので。
元の世界なら眉をひそめられますが、ここは時間がごちゃごちゃ。いいですねえ。
そして戻ってすぐ、三人そろってお茶会に呼ばれました。


チョコケーキは、クリームたっぷりできれいなチョコの飾りまでついてました。
「うわあ、お姉さんのケーキ、美味しそう」
ディーは顔を輝かせてのぞきこみますが、あいにくとこのケーキは一つだけ。
だから私は、ケーキのてっぺんにフォークを差し込む。
チョコレートの飾りの一つを、クリームごと上手にすくい、落とさないように……。
「え?お姉さん?」
真横に座っていたディーが、露骨に動揺する。
はいはい。ディー。お口開けて。一番美味しいところをあげますから。
「え?え……え?いや、別に僕は欲しいわけじゃ……その……」
でも誘惑に屈したのか口を開けてくれました。
私は微笑んで、チョコの飾りを食べさせてあげる。
するとディーは輝くような笑顔で、
「美味しい……ありがとう、お姉さん!」
うむうむ。美味しそうな飾りでしたもんね。
……と、反対側の席から、暗黒オーラを感じます。
「お姉さん……」
もともと間延びしたダムの声が、さらに地を這うがごとくになっています。
――仕方ないですねえ。
ひいきは許されない。また双子の見分けが区別出来なくなったとしても。
私はすぐケーキに向き直ると、ケーキの背中の部分の、チョコソースとクリームが
うんとかかった部分をフォークで大きく切り取る。そしてダムに『あーん』。
ダムは大きな口を開けて、すぐに頬張る。
「ありがとう、カイお姉さん!」
うんうん。嬉しそうで何より。と、私は残りのケーキに取りかかろうとして、
「……何ていうか、本当に『お姉さん』って感じだよな」
向かいのエリオットさんが、くすぐったそうな顔で言いました。
「ああ。姉弟、仲睦まじいようで何よりだ」
紅茶を飲みながら、ブラッドさんも仰います。気のせいか、少し複雑そうなお顔で。

私は少し首をかしげました。そしてほどなく結論が出、フォークでケーキの三分の二
ほどを切り取り、エリオットさんの方に……。
「ち、違う違う!俺はいらねえから!ていうか、あんたの分がなくなるだろ!」
顔を真っ赤にして否定するエリオットさん。
それは失礼、と私はケーキを口に放り込む。
うわあ。濃厚チョコが生地にしっとり染みこんでいて本当に美味しいな〜。
ほくほく気分の私でしたが、両側の双子は何やら不満があるようです。
「『姉弟』じゃないよ、ボス!!」
「僕らはお姉さんと恋人なんだよ!!」
「そうか、悪かったな」
ムキになるディーとダムに対し、ブラッドさんはサラリと流す。
エリオットさんは、ニンジンケーキをつつきながらニヤニヤと、
「でもな、おまえらがどう思ってようと、はたからは姉弟にしか見えてねえぜ」
まあ、それはそうでしょうね。と私はうなずきましたが、
『……っ!!』
なぜか、双子はグッと言葉につまる。何か痛いことを言われた、という感じの沈黙。
てっきり、猛烈にエリオットさんにかみつくと思ってたのに。
かと思うと突然、クルッと私に向き直り、服のすそをつかみました。
コラ!次のケーキが取れな……コホン、紅茶が飲めないじゃないですか!
でも双子は私の服をしっかり握って離さない。
「カイお姉さん……ねえ、カイお姉さん」
「舞踏会では僕たちと踊ってくれるよね?他の奴を誘わないでね?」

は?舞踏会?唐突に何ですか?

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