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■帽子屋屋敷で起きました4

ブラッドさんはたいそうダルそうに、双子の子たちに言いました。
「では、ちゃんと仕事をするんだぞ、門番たち。でなければ……」
双子の子たちはビシッと敬礼する。若干、大げさに。
「分かったよ。ボス。門の前にいるから休憩時間を減らさないで」
「屋敷に来る奴を片っ端から斬ってくから、給料を減らさないで」
「分かっていないようだな。斬る相手をちゃんと考えて――」
何だかお仕事の話が続きますが、私はそれどころじゃございません。
うん。間違いない。私をメッタ斬りにしたのは、目の前の子たちだ。
そう思うと、背筋がぞわっとする。それに、
――あ……何だか思い出してきたような……。
嫌な記憶の扉が、少し開いた音がしました。

『大丈夫、そんなに痛くないよ』
『無料で楽にしてあげるよ』

そうそう。そんなことを言われました。
門の前を通りがかって、そうしたら、こう言われ、斬られたんです。
本来なら、何かしら助けが入るシーンだった気もします。
でも私はヒロイン体質ではなかったようで、助けは何一つ入りませんでした。
順当にザクザクと切り刻まれちゃったんですよね。
まさに狂気とスプラッタの世界でした。
いやあ、本当によく生きてたもんだ……はは。
あと、痛かった。どこが『痛くない』ですか。青い子はすっごい嘘つきです。
あははは!!……はは。

「分かったよ、ボス。悪い奴を斬ればいいんだね!」
「でも誰が悪い奴か分からないから、皆斬っちゃえばいいんだよ」
「おまえたちは話を聞かないな。一体誰に似たのやら」
ブラッドさんと双子の子たちの不毛な話は、まだ続いているようでした。
私の方は、非常に困った気分になっていました。
とりあえず、再度刻まれないよう、一刻も早く遠ざかるのが得策でしょう。

そう結論づけたとき、ブラッドさんが私を振り向いた。
どうやら双子の子たちの教育は、切り上げることにされたらしい。
「お嬢さん。私はこれからお茶会をする。客人の君にぜひ参加してもらいたい」
妖しげな笑みを浮かべて、私に言いました。
うーん。存在自体が終わっているようなファッションセンスの方だけど、顔立ちは
やはり整っておられます。女性なら、誰もが魅了されるに違いありません。
私もクラッとよろめきかけました。

が、私は丁重に一礼しました。辞退の意思表示です。
屋敷を去るのにお茶会に参加は出来ません。
そして私はブラッドさんにそのまま背を向け、歩き出しました。
「おや?行くのか?つれないことだ」
ブラッドさんはちょっと意外そうだった。
「すごい!ボスがフラれちゃったね、兄弟」
「女の人がボスをフるのって初めて見たね」
呆気に取られたような双子の声。い、いえフるなんてとんでもない!!
というか、原因はあなたたちですからね!

「気が向いたら、いつでも参加してくれたまえ。ではな」
ブラッドさんは無理に私を引き止めたりはしませんでした。
私と逆方向に歩く足音が聞こえ、それは一度も止まること無く、さっさと遠ざかる。
……ちょっとだけ残念だなんて思ってませんよ?そして、
「お姉さん、どこ行くの?」
「ボスについていかないなんて、お姉さん、変わってるね」
何でついてくるんですか。赤と青の双子。

…………

廊下を歩く。未だに夕方の来ない、不気味な窓の外を見ながら。
私は屋敷の外に出ようとしていました。
そしてしばらく歩いて立ち止まる。
すると、私の後に続いていた足音も立ち止まりました。
私はゆっくりと振り向きます。
すると赤と青の双子が、少し離れた場所から、きょとんとして私を見てました。
「お姉さん、どうしたの?」
「お姉さん、早く行こうよ」

……なぜ同行者面をしているんですか、貴様ら。

まあ、外に出るなら門を通らなきゃいけないし、彼らは門番。持ち場に戻る途中。
歩く方向が同じになるのも、仕方ないとは言えますが。
しかし。優しいカイさんでも、そうそう許せはしませんです。
いえ、許す許せない以前に、この双子さんが怖いのです。
――先に行ってもらいましょうか。
私は廊下の脇によけ、双子を先に通すことに決めました。
双子はもちろんすぐ歩き出して、私を追い越し……
「お姉さん、疲れたの?休憩は大事だよね」
「お姉さんは余所者だものね。か弱いなあ」
……なぜ私のところに、とことこ寄ってきますか。
というか距離が近い、そして……斧が近い。
私を斬り刻んだ斧が目の前に、ギラギラと……。

そのとき、ふいに窓の外の風景が変わる。

「あ、夜の時間帯になったよ、兄弟」
「今回は昼の時間帯が長かったよね」
「お姉さん、僕らとお風呂に入る?」
「一緒に入ろう。タダにしてあげる」

窓の外が夜になりました。
夕方も、日の入りも経過せず。青空が数秒で星空に。
ウサギ耳のお兄さん。
顔のない使用人さん。
唐突に変わる窓の外。
私を切り刻んだ双子。

『お姉さん?』

――あ。

私は目の前が真っ暗になり、気絶しました。
やっとヒロインっぽいことが出来た気がして、意識が飛ぶ寸前に、ちと自己満足。

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