続き→ トップへ 目次に戻る

■かなりの温度差

ついに、ドサッと草むらに横たわりましたです。
え?私が、別れの言葉を言えたかどうかですって?……ご想像の通りです。

「お姉さん、偉いね。頑張ったよね。真っ青になって滝みたいな汗を流しながら、
必死で何か言おうとしてたよね」
「兄弟。きっと僕らに告白しようとしてたんだよ。でも大丈夫!!
僕ら、お姉さんの心の声なら、いつでも聞こえてるから」
聞こえてねえですし。
ガキどもは、ふてくされた私のかたわらにしゃがみ、勝手に頭を撫でてくる。
ああ、もう話し方教室とか通おうかな……。
雑草をブチブチ千切りながらイジけてみました。双子はニコニコと、
「そんなに頑張らなくていいよ、お姉さん。僕らがフォローするから」
「そうだよ。お姉さんは何もせずニコニコして、屋敷で行き倒れていればいいから」
……そんなに行き倒れまくってるかなあ、自分。
さっきは廊下でブラッドさんに注意され、その前はエリオットさんの部屋の前で寝て
エリオットさんに『起きろおぉぉ!!』と頭をグリグリされ、その前は使用人さんに
踏まれて、つまずかせちゃって……ぐぅ……。
「お姉さんー!!寝ないでよ!!」
「お姉さん!カイお姉さん!僕らを見てくれなきゃ嫌だよ!!」
うう……いいじゃないですか。だいたい私が昼間眠いのは、あなたたちが夜に……。
……コホン。青空の下でする話題ではありませんね。
渋々目を開けて起き上がると、双子が(斧ごと)すがってきました。
ブルブルしながら抱きつかれていますと、ディーが甘えた声で、
「ねえねえ、カイお姉さん。退屈なら、どこかに遊びに行く?」
猫よろしく身体をこすりつけるダムも、
「そうだよ、兄弟。恋人を退屈させないのは男の義務なんだから」
いえ、全然違います。あと、私をダシに自分たちが遊びに行きたいだけでしょう。
――ああ!ツッコミ入れたい!超ツッコミ入れたいです!
うう。でも声が出ないです。
ドキがムネムネしちゃって、いざしゃべろうとすると、頭が真っ白になっちゃって。
私の葛藤をよそに、双子はさっさと立ち上がり、私を引っ張って起こしてくれる。
「行こう、お姉さん!」
「ひよこウサギが来る前に、早く早く!!」
……門の外に引っ張られ、私は久しぶりに帽子屋屋敷の外に出ました。

…………

街はいつでもにぎやかです。
私の手を引っ張るディーは、頬を染めて私を振り返る。
「ええとね、カイお姉さん。まず広場のカフェでお茶でしょ。
それから遊園地に遊びに行って映画を見て……」
するとダムがディーのそでを引っ張って『しー!』と人差し指を口に当てる。
「兄弟兄弟。デートコースを事前に言うと楽しみが半減するよ」
いえ、私は別にいいですけど。こんな狭い世界でサプライズも何もないですし。
でもディーは真剣な顔でダムにうなずいています。
「そ、そうだね。兄弟。予約のことなんか言っちゃダメだよね」
……言ってますよ、ディー。レストランですか?お姉さん、ワクワク。
「お姉さん、行こう!!」
「僕らから離れないでね!」
二人は私を引っ張って、張り切って歩いて行く。
もう大人よろしく、私をエスコートする気満々です。
――カフェで一眠りして、映画館でポップコーンを食べながら寝て……。
私もつられてデートコースの過ごし方を算段し、ハッと我に返る。
――いやいや!そうじゃないですよ!この子たちと別れないと!
拒絶を貫かず、ずるずるとつきあってしまう私にも、大いに問題はあるのです。

――でもなあ……。
初恋の喜びにキラキラ輝き、私を引っ張っていく子どもたち。
可愛いと思う。強いと思う。怖いと思う。頼もしいと思うときもある。
けど、異性として見ることは出来ません。しかも二人ですし。
でも今みたいにキラキラしているのを見ると、別れる意志がくじけてしまうのです。
――それじゃ、ダメなんですよね。何とか傷つけずに二人と別れる方法は……。

…………

前言撤回。凶悪なガキどもが傷つこうが知ったことですか。

「お姉さん……暴れないでよ。服が破れちゃうよ?」
シーツの上で、頭の方からこちらの両腕を押さえつけるディー。
「でも、ちょっとくらいなら破れてもいいんじゃないかな。見せつけられるし」
ジタバタする私の足を押さえ、こちらの服のボタンを外しながらダム。
何を……どう見せつけるんですか、貴様ら。

3/7

続き→

トップへ 目次に戻る


- ナノ -